第二十一話
土曜日の朝。
久しぶりに向かう銀座へ、軽く食事を済ませてから家を出た。
軽めのワンピースに、今年流行りのカーディガンを肩に引っ掛け、低めのヒールのシューズ。お出かけ用のマスクを付けると、鏡の中の自分は、少しだけ「用事のある人」の顔をしていた。
駅へ向かう人の数は、平日と比べるとずいぶん少ない。
銀座に着いても同じで、街は思った以上に歩きやすかった。
旅行会社のVIP専用デスクに到着したのは、指定時間の五分前。
おそらく今日の一人目なのだろう。
ドアを入ると、すぐに奥のソファへ案内される。
「どうぞ、こちらへ」
すでにテーブルの上には、いくつかのプラン資料とホテルのパンフレットが整えられていた。
対応してくれたのは若い女性ではなく、自分より少し年配の、落ち着いた印象の担当者だった。
「本日はありがとうございます。お母さまから、事前にお話はうかがっております」
そう言われ、こちらも小さく会釈をする。
細かい説明はほとんどなく、確認事項と署名、捺印だけで話は進んでいった。
「こちらが仮契約書になります」 「はい」
持参したクーポンを差し出すと、担当者は手際よく計算を進める。
残額の明細を見ると、クーポンの倍ほどの金額になっていた。
――まあ、そうなるわよね。
その間に、二度ほど飲み物が運ばれる。
「お飲み物、もう一杯いかがなさいますか?」 「ありがとうございます。では、同じものを」
時期は梅雨前。
宿泊先は高層階、海雲台海岸が見える側の部屋。
オプショナルツアーは韓流ドラマの撮影スタジオのみ一日参加で、残りの三日間は自由行動という内容だった。
「かなり余裕のある日程ですね」 「はい。ご自身のペースでお過ごしいただけるかと」
最後に、VIP専用契約のグッズ一式――仮契約書とパンフレットが、上品な紙袋と封筒に収められて手渡された。
「それでは、本日は以上でございます」 「ありがとうございました」
紙袋の持ち手を指に掛けながら席を立つと、
旅が、少しだけ現実の輪郭を持ちはじめた気がした。




