第十八話
母から電話がかかってきた。
「もしもし、果歩?」
「うん、もしもし」
「会社からもらった旅行会社のクーポン券ね、もうあんたのマンションに送ったから」
「……もう?」
「もう。だから銀座のVIP専用デスクで、あんたが決めておいてちょうだい」
「ちょ、ちょっと待って、まだ行くって――」
「観光は添乗員が同行らしいけど、あれはいらないわよね」
「聞いてる?」
「ゴールデンウィーク明けが空いてると思うのよ、お父さんもそう言ってて」
「聞いてない話が増えていくんだけど」
「三泊四日くらいがちょうどいいそうよ」
「誰にとって?」
「一日だけオプション付けて、あとはフリーのパックで」
「自由行動ってこと?」
「そうそう、自由が一番」
「自由の定義が不安なんだけど」
「ホテルはなるべく海雲台海岸に近いところがいいわね」
「そこは同意」
「でしょ? お父さんも同じこと言ってたわ」
「父さん、そこだけは意見言ったんだ」
「クーポンで足りない分は、お父さんが振り込むそうだから」
「え、もう金額決まってるの?」
「明細はちゃんとこっちに送るように言っておいて」
「はいはい……」
「それとね」
嫌な予感がした。
「私たち二人ともパスポート切れてるのよ」
「今?」
「今」
「……今?」
「でも間に合うわよね?」
「いや、理論上は間に合うけど、段取りは――」
「あんたのは切れてないでしょ?」
「それは、まあ」
「じゃあ大丈夫ね」
「論理が雑!」
母は果歩の抗議をきれいに無視して、
「じゃ、よろしくね」
とだけ言って、電話を切った。
果歩はしばらくスマホを見つめたまま、
「……旅行って、こうやって決まるものだったっけ」
と、小さく呟いた。




