第十六話
管理人
① 오늘부터 잘 부탁합니다.
② オヌルブト チャル プタクハムニダ
③ 今日から、よろしくお願いします。
一拍、置く。
事務的な声ではない。
評価でも、挨拶でもない。
管理人
① 기대하고 있습니다.
② キデハゴ イッスムニダ
③ 期待しています。
母は、その言葉の意味を取れない。
けれど、
声のトーンが変わったことだけは分かる。
空気が、一段、静かになる。
母
「今夜、また説明があるの?」
耕作
① 세부 규칙은 오늘 저녁 오리엔테이션에서 설명하나요?
② セブ キュチグン オヌル チョニョク オリエンテイションエソ ソルミョンハナヨ?
③ 細かい規則は、今夜のオリエンテーションで説明されますか?
管理人
① 네, 오늘 밤에 전체 오리엔테이션이 있습니다.
② ネ、オヌル パメ チョンチェ オリエンテイションイ イッスムニダ
③ はい、今夜、全体オリエンテーションがあります。
管理人
① 오늘은 여기까지입니다. 어머님은 이제 돌아가셔도 됩니다.
② オヌルン ヨギッカジイムニダ。オモニムン イジェ トラガショド テムニダ
③ 本日はここまでです。お母様は、もうお帰りになって大丈夫です。
母
「……分かりました」
そう言って、
耕作の方を見る。
耕作
「今夜、説明があるって。
だから、大丈夫」
それは説明というより、
帰っていい、という合図だった。
母は、うなずき、
何も言わずに一歩下がる。
役割は、ここで終わった。
管理人
① 그럼, 잘 적응해 봅시다.
② クロム、チャル チョグンヘ ポプシダ
③ では、うまく適応していきましょう。
耕作
① 네.
② ネ
③ はい。
母は振り返らず、
そのまま玄関を出ていく。
自動ドアが閉まる音が、
この朝の最後だった。
守る役目は、
外へ出た。
外の光と風が、
母を包む。
母は、そのまま歩き出しかけて、
二歩目で止まった。
振り返る。
ガラス越しに、
耕作が立っている。
もう、
中の人間の立ち方をしている。
母は、
ドアが再び開くのを待って、
小さく手を上げた。
「……何かあったら」
一度、言葉を切る。
「何かあったら、
電話するんだよ」
それは命令でも、
確認でもない。
役目が終わった人の、
最後の習慣だった。
耕作は、
すぐには頷かない。
一拍、置いてから、答える。
「うん。する」
短い。
それで十分だと、
互いに分かっている。
母は、少し迷ってから、
思い出したように、韓国語を置く。
母
① 아프면 꼭 전화해.
② アプミョン コク チョナヘ
③ 具合が悪くなったら、必ず電話して。
発音は、
少しだけ不安定だった。
耕作は、韓国語で返す。
耕作
① 네, 알겠어요.
② ネ、アルゲッソヨ
③ はい、分かりました。
その「はい」は、
もう、子どもの返事ではなかった。
母は、何も付け足さず、
今度こそ、背を向ける。
風が、
彼女のコートの裾を引く。
それを直さず、
歩いていく。
耕作は、ガラスの内側で、
一度だけ、深く息を吸った。




