グンマーの目覚め
ヒョーゴスラビア内戦下
タンバゴヴィナ共和国第一歩兵師団隷下グンマー帝国義勇軍第一歩兵大隊
散発的な銃声、破壊的な砲撃音、稀に聞こえたと思ったら戦友の姿が消え去る航空機のプロペラ音にも慣れ始め、はや1ヶ月。「日本初の近代戦」といわれ、その情報収集を含めて派遣されたグンマー帝国義勇軍3個歩兵大隊はまさにフォウニー・ウォーな状態であった。派遣前の訓示で散々危険かの様に言われた戦いは
「思ったよりも、平和だな…」
塹壕内でのグンマー兵が呟いた言葉に集約されている。
現状、ヒョーゴスラビアの各構成国は、志願者や共産主義のシンパなどによる民兵と内戦時に離反してきた職業軍人の歩兵師団、それぞれおおよそ4個師団の計8個師団を所有していた。もちろん内戦発生前のストライキや小規模な反乱などで軍需工場は壊れていて大半が使い物にならず部隊の補給状況は最悪である。
そんな状態なため国境が空いていれば浸透し、互いに接敵すればにらみ合いだけ。損傷を最大限抑えようと必死であった。
「攻勢命令だ!セッツィアの奴らに要地が取られた、援軍に行くぞ!」
とはいえたまには戦闘が起こる。片方がにらみ合いなどしていられない程有利な地点をとればそれを取り返しに行かなければならない。
「ジャバリ軍曹、偵察を頼む。トラックを3台出してやる。」
「了解しました!」
指示を出し終えた五十川ムピロ少尉は目の前の机に広がる地図に指を走らせる。
グンマ―本国も自分たちも奪取されることを危惧していた重要な丘陵地、攻勢を受け始めた時に援軍に入るか問うた時に自信満々に拒否されただけにイラつくものがある。
「我々を火消し係だとでも思っているのか。」
おおよそ反攻作戦を行ってすぐに攻勢限界に達したのだろう。自分たちは便利屋という訳だ。それに向こうもタンバゴヴィナ陸軍もほぼすべての部隊が定員割れを起こしている。3個大隊とはいえ完全武装した正規軍が援軍に加われば散発的な戦闘だけで撤退するだろう。
「情報が届き次第すぐ出るぞ!準備しとけ!」
そう部下に指示を出したムピロは白兵戦用の石槍を背負いグンマ―民族特有の化粧を始めた。
1935年10月30日15時
群馬臨時議会が統治する多民族国家「グンマ」から衝撃のニュースが飛んできた。
「長老会の武装組織が議会に突入」
以前から長老会と臨時議会は摩擦があった。協調主義の議会とグンマー族第一主義の長老会、相反する主義なのだから、まあ時間の問題だったのだろう。前橋村を中核とする様々なグンマ内の民族は伝統的な統治を望んでいるようだ。…だからといって国境警備隊が上裸で小銃を持ち警備したいと要望を出すのはやりすぎだと思うが。
それはおいておこう。臨時議会の議員たちはトツィギへの亡命に成功し正統群馬を名乗っている。かの戦争で利根川を巡り争った、だが因縁のある国、トツィギ。ああこの言い方はグンマ―訛りだったはずか、「トチギ」へ亡命したのは愚策だった。いまや国民は議員たちを売国奴と呼び長老会の統治を受け入れている。とはいえ工業力が他国に劣るグンマの工業化を推し進めた実績が臨時議会にはある。工場建設は継続されているしその恩恵を受けている者が大半であったのを思い出すと少々可哀そうに思えても来る。おそらく彼らがグンマ―の指導者として戻るのは長老会のグンマ―が戦争で負けたときだろう。
現在はファシストのグンマー帝国大長老会議が行政や軍事といった国家機能を全て、瞬く間に掌握し自らをグンマー帝国と名乗り、前橋村長老兼村長が「全ての自治体の独立」を目的に軍拡を宣言したところだ。
議会に突入した村民武装隊が治安維持、本国部隊の監視をしているらしい。彼らはグンマ―陸軍の中でも抜きんでた精鋭だ。グンマ―内の各民族から毎年選抜され、そこからさらに厳しい選抜過程を経るそうで、さすがにそれを相手にして亡命した臨時議会に味方しようとする者はいないだろう。
そう長くない内に国外のグンマの施設にも様々な指示が来るはずだ。
今日も朝早くから新しく制定されたであろう国旗と旧というべき見慣れた国旗のどちらを掲揚するかの会議が行われていた。
「とまあこんな所か。」
そう独り呟き在チバ国グンマ国大使館駐在武官補佐の樋口は日記帳を自室の机にしまい鍵をかける。チバ国陸軍の将軍と個人的に縁がある事が理由に少尉の階級で駐在武官補佐になりはや半年、やっと生活に慣れ始めた頃の出来事だった。
確か今日は広報用のグンマ民族衣装を着て写真を撮るんだったなと身支度を済ませながら思い出した。
「明日、本国から人事辞令と訓示が届くらしい。」
両頬に白い線の化粧を一本づつ引き、グンマー民族伝統の衣装を着て見た目を現在進行形で整えられている上官、ジャロ大佐が言う。
「訓示と言うのは?」
大佐の後ろで待つ樋口が言った。
「訓示が届く、それだけ朝に伝えられた。本国の奴ら明日の朝駐在員を全員集めてそこで読み上げろと言い出した。全く面倒な書類仕事を増やしたクセに時間まで奪いよって…書類仕事は武力で解決できんから嫌いなんだ。」
溜まったものではないなと呟く大佐はたしか戦乱期に前線で昇進した野戦上がりだったなと思い出す。
「亡命政府を支持すれば、そんな仕事からも解放されるのでは?」
「面白い提案だがまだ自殺の予定はない。」
そう言ってガハハと笑った大佐はヘアメイクをしているスタッフに動かないでと黙らされた。
撮影が終わり時間が余った。すいとんや炭酸まんじゅうといったグンマ料理が大きなテーブルの端々に広がり両国の要人がそれを片手に話をしている。これが昼飯の代わりだからと樋口はグンマ料理であるひもかわといううどんを食べていた。目の前には皿に大量に盛られた料理を平らげながら隣のチバ軍の将軍と交流を深めている。
「そちらの国は大変そうだな、樋口少尉」
ふと箸を止め見上げる。
「桜井大佐殿、お久しぶりですね。」
樋口の叔父にあたり、チバ陸軍の大佐。それが桜井である。
「殿なんて身内相手に冷たいじゃないかぁ」
そう言いながら桜井は恐らく軍規違反であろう無精ヒゲを擦る。2.30代の風貌で丸渕メガネ、出世頭、自分がここに来た原因それが樋口の知る桜井だった。
「そうは言っても尉官と佐官ですから…」
「んー悲しいな、まあ、暇なときはいつでもうちに来ていいから。待ってるよ。」
そう言って桜井は会場の要人達の元へと歩いて行った。樋口は良くも悪くも少尉であり目の前で5杯目のすき焼きを食べているジャロ大佐に付いているだけでいい。
すき焼き大食い選手権が始まったのはその10分後である。
解説
チバ
政治においては千葉暫定有権者集会が実権を握り、民主主義の千葉県地方議会、共産主義の国鉄千葉動力車労働組合、ファシストのオーリントランドと議席数が減っていく。主義の違う彼らだが根本の思想は「首都機能を千葉へ」でありトウキョウを恨んでいる。そのため度々「トウキョウ」を騙るチバの遊園地前ではデモが起きている。
軍隊は高射砲を主軸とした特化師団が7つとかなり偏りがある。戦乱期に歴史上類を見ない包囲戦を行った、ふ█っしー元帥の戦略との噂もある。
海軍は駆逐艦一隻とないも当然であるが、空軍は航空機の黎明期にも関わらず他国よりもかなり多い戦闘機が180機、急降下爆撃機が120機配備されている。…




