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成績優秀、品行方正なクラスメイト(美少女・高校二年生)に算数を教えよう

作者: 柔ひと

「う~ん。この難問、どうやって解くんでしょうか?」


 忘れ物に気が付いて教室に戻ってみると、もう遅い時間だというのに、女子生徒が一人机と睨めっこをしていた。よく見るとプリントらしきものを見ながら腕を組んでいる。


「マズいですね。先生から数学の問題を渡されたはいいものの、全く分かりません」


 どうやら教師から渡された課題に苦戦している最中らしい。かなり集中しているみたいだから気づかれずに忘れ物を回収することが出来るだろう。それにしても独り言が多いな。


 こっそりと自分の席にたどり着いた俺だったが、次の瞬間に衝撃的な発言が聞こえてきた。


「通分ってどうやるんでしたっけ?」


 ここは高校だぞ。


 驚きのあまり女子生徒の方を向くと、彼女は酷く難しい顔をして腕を組んでいた。……本気で分からないらしい。


「先ずは分母同士を引くんでしたよね」


 待て、それ絶対にやっちゃいけないやつ。


「あれれ!?分母がゼロになっちゃいました」


 分母揃ってたのかよ。それなら通分する必要すら無いわ!!


「分母がゼロ、つまりゼロで割るということは…………はっ、答えはゼロ!!」


 俺は居ても立っても居られなくなって話しかける。


「あの……何をやっているんですか?」


 俺の声に女子生徒が振り返る。その顔を見て俺は腰を抜かしそうになったね。なぜなら先ほどから通分に苦しめられていた高校生は、なんとあの才色兼備、二年生の首席と噂される夕目 奏夏(ゆうめ そうか)さんだったからだ。


「あれ、古谷君じゃないですか。私は見ての通り先生から渡された数学の課題を解いてるところです」

「それ……数学っていうか算数ですよね」

「あはは……バレちゃいましたか。恥ずかしながら私、数字に弱くて」


 弱いってレベルじゃ無かったと思う。

 なんて声を掛けたらいいか迷っている俺に、なぜか夕目さんは目をキラキラさせながらこんなことを言ってきた。


古谷(ふるや)君!!もし時間があればこのプリントを教えてくれませんか?さっきから考えてるんですけど全然分からなくて」


 その言葉と共に突き付けられたプリントの左上には『小学生の算数総復讐プリント:初級編』と書かれていた。


 正直なところもう日も暮れてるし、忘れ物をサルベージ出来たなら早く帰ってしまいたいところである。

 でも……こんなものを見せられてそのまま帰れる奴がいるか!?


∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫


「な、なるほど!!これが通分なんですね!!」

「……はい」

「あと数をゼロで割っちゃいけないっていう説明もすっごく納得出来ました!!」

「……そうですか」


 教えたことに感謝された嬉しさと、なんで小学生レベルの算数が分からないんだよという混乱と、夕目さんって成績優秀だったよな?という疑問が頭の中を駆け巡り、非常に複雑な感情になってしまっている。


「古谷君は凄いですね~。数学者みたいです」


 さすがにそれは盛り過ぎだろう。


「まあ、さしずめ私は数弱者ってところですけどね」

「上手いことを言わないで下さい」


 こういう咄嗟の頭の回転を見ると、やはり目の前にいるこの人は成績優秀、品行方正で有名な夕目さんで間違いないんだなあと思ってしまう。本当になんでこんなに数学ができないんだ。

少しの間考えた末に俺はある結論を出した。


「夕目さんが頭が良いっていう噂はデマだったんですね」

「なっ、失礼な。どこを見たらそんな結論が出てくるんですか?」


 今までの夕目さんの言動を見ていたらそう思ってもおかしくないと思う。そんな俺の目線を察したのか、夕目さんは必死に弁明を始めた。


「私が苦手な教科は数学だけです。例えば……そうですね、この前の中間テストは数学を除いて全て満点でした」


 それは流石に凄いな。満点なんて中々とれるような物じゃないし、しかもそれが数学以外の全教科といったら更に難しい。


「数学は0点だったんですけどね」


 それは流石にヤバいな。数学のテストは序盤の方で簡単な(とはいえ高校レベルの)計算問題が出る関係上、0点なんて中々とれる物じゃない、つまりこの人は高校数学が全く定着していないということだ。だが……算数に苦戦していた様子を見るとそれも納得できる。


「はあ~~~~~なんでこうなっちゃたかなあ。小学生のときから数字を扱うのは苦手だったんですけど……結局分からないままここまで来ちゃいました」


 椅子の背もたれに大げさに寄りかかりながら夕目さんは言う。なんだか見ていられないのでフォローはしておこう。


「俺が思うに……夕目さんは今まで数学をしっかり教えてくれる人に出会わなかっただけじゃないですか? そういう人から教われば今授業でやってる数学までバッチリ理解できると思います」


 そう、通分やらを教えている最中に何度も考えたが、この人……説明の理解力がやたらと高い。まるで乾いたスポンジのように俺の教えたことをどんどん吸収していく。


 その代わりに少しでも説明が論理的じゃなかったり、納得させるためだけの例え……例えばマイナス×マイナスがプラスになるのは嫌いな奴に悪いことが起これば嬉しいから、などを言ったりすると滅茶苦茶混乱していた。


 だからそこら辺をうまくやれる人間が先生になれば問題なく理解できるんじゃないか。


「数学をしっかり教えてくれる人ってどこに居るんでしょうね」

「え~っと、例えば数学教師とかどうですか」


 数学を教えるっていう意味で言えばこれ以上の適任も居ないだろう。


「あの人はダメです。私がまず小学生の単元が分からないって言ったら、ドン引きしながら無言でこのプリントを渡してきたんですよ!?」


 そう言って『小学生の算数総復讐プリント:初級編』をひらひらさせる夕目さん。どうやら当てにならないらしい。というか高校教師なのに小学生のプリントを常備しているのはどういうことだ。


「じゃあ友達とか」

「いや〜流石に頼めないですよ。いつも私が勉強を教えるばかりですし」

「これを機に教えあう関係になったら良いんじゃないですか?」

「う~ん。こう言っては何ですが教わっても私が納得できないような気がします」


 まあ、それはそうかもしれない。実際小学生の算数を人に教えるのはかなり難しい。加えて夕目さんの様子を考えると、分からない箇所があればとことん問い詰めるだろう。その全てに正しく答えられる人が果たしているだろうか。


 腕組みをしながら考えをめぐらす俺をよそに、夕目さんは「教えあう関係……か」とこぼしながらこれまた何かを考えているようだった。


 だが、やがて向き直って俺を見つめる。両手は膝の上に置いてあり、まるで重大なお願いをする前のようだった。


「古谷君」

「はい」

「私、自分に数学を教えてくれる人、見つけました」


 数十分前のように目をキラキラさせながらそう告げてくる夕目さん。対して俺は非常に嫌な予感がしていた。


「まさか……」

「そう、あなたです!! 私に数学……もとい算数を教えて下さい!!」


 やっぱりな!! 薄々そんな感じはしていた。俺が同年代の女子に小学生の算数を教えるだと? どんな罰ゲームだ。


「お願いします。先生!!」

「ごく自然に呼び方を変えないでください。俺はそんなに大した人間じゃないですよ」

「いえ、大したことあります。さっきしてくれた説明は本当に分かりやすくて」


 夕目さんは一旦息を吸ってから静かに言葉を繋ぐ。


「……正直言って、今まで受けてきた数学の授業で一番楽しかったです」


 ……その言葉は反則だろう。お世辞などではなく本心からそう思っているのが伝わってくる声音だった。もう少しで完全に篭絡されるところだったな、危ない危ない。

だが形勢が夕目さんに傾きかけていたのも事実。あと一手何かがあれば簡単に承諾してしまっていたかもしれない。


「あ、そういえば私、次の期末テストで数学の赤点を回避しないと落単で留年するんでした」

「ぜひ俺に数学を教えさせてください」


 こんな事を言われて無視できる奴がいるか!?


気が向いたら続きを書くかも


ド・モアブル→フル・トモア→古谷 智明

夏目漱石→”せき” ”め” ”そう” ”なつ”→夕目 奏夏

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