ニンゲンを喰ってたら溺愛されました
ーーオレはニンゲンが大好きだ。
ニンゲンは可愛いし、柔らかくて美味しいし、食べようとすると「ギャァァァ」と小さくか細い声で鳴くところが好きだ。
暗い道の端っこ、ゴミが積もった臭い場所でオレはニンゲンを喰う。今日のニンゲンは少し冷たい。動かなくなってから時間が経ったらしい。
触手を伸ばして腕をつかむ。細い骨がオレの力でバキッと折れる。いい音だ。血が少しだけ流れ出て、赤くて温かい。オレはそれを舐める。甘くて、少ししょっぱい。美味しい。
皮を剥ぐ。
ニンゲンは皮が薄いから簡単だ。
触手の先で引っ張ればビリッと裂けて、白い肉が見える。
歯を立てる。柔らかくて、噛むと汁が口に広がる。
骨は硬いけど、砕けば中が柔らかい。
髄を吸うと、もっと甘い。
内臓は臭いから捨てる。
お腹を裂いて、黒くてドロドロしたものをゴミに投げる。
ニンゲンはこうやって喰うのが一番だ。
硬いところは捨てて、柔らかいところだけ味わう。
オレはそうやって生きてきた。
ーーーーー
ゴミの中でニンゲンを喰ってると、遠くで光が揺れる。
松明だ。ニンゲンたちが近づいてくる。オレは触手を動かして、ニンゲンの残りを隠す。
喰い終わりたかったのに。
光が近づくと、ニンゲンの声が響く。
「化け物だ!」と叫ぶ声だ。
オレは一つ目でそいつらを見る。
若いニンゲンが鋭い鉄を持って震えてる。
顔が白くて、目が濡れてる。怖がってるみたいだ。
でも、剣をオレに向ける。
他のニンゲンが弓を構え、火のついた矢を放つ。
火は嫌いだ。
熱くて、触手が縮む。
オレは触手を伸ばして、鋭い鉄を持ったニンゲンをつかむ。
首が細い。簡単に折れる。
グキッと音がして、動かなくなった。
柔らかい肉がまた増えた。
もう一本触手を伸ばして、別のニンゲンをつかむ。
そいつも首をへし折る。
血が飛び散って、赤い染みが広がる。
「やめろ! お前がアイツを…!」と叫ぶ声がする。
ひときわキラキラした鋭い鉄を持つニンゲンがリーダーらしい。
顔が真っ赤で、目から水が溢れてる。
オレはそいつを喰おうと触手を伸ばす。
でも、火矢が飛んできて触手に当たる。
熱い。黒い粘液が焦げて、臭い煙が上がる。
火はオレを弱くする。
触手が縮んで、力が抜ける。
ニンゲンたちがもっと近づいてくる。
鋭い鉄がオレの体に当たる。
硬い刃が粘液を切って、少し痛い。
オレは喰うのをやめて逃げる。
黒い霧を口から噴き出す。
ニンゲンたちが咳き込んで見えなくなった隙に這う。
臭いゴミの中を滑って、暗い穴に隠れる。
ニンゲンの声が遠くなる。
ーーーーーーーー
でも、逃げきれなかった。
ニンゲンたちはオレを追いかけてくる。
騙された。四角いところに閉じ込められた。
硬い壁が四つあって、触手が届かない。
鉄の棒がオレを囲む。
ニンゲンたちが外で叫ぶ。
「捕まえたぞ!」「殺せ!」と声がうるさい。
オレは触手を壁に叩きつける。
バン、バンと音がするけど、壁は動かない。
四角いところは嫌いだ。
狭くて、触手が自由に動かせない。
オレは一つ目で外を見る。
ニンゲンたちが松明を持ってオレを睨んでる。
リーダーの若いニンゲンが鋭い鉄を握り潰しそうに持ってる。
目が赤くて、顔が歪んでる。
「お前がアイツを喰ったんだ…!」
アイツって何だ?
オレはニンゲンを喰うだけだ。
柔らかい肉が好きだから喰う。それだけなのに。
火がまた近づいてくる。
ニンゲンたちが鉄の棒の間に松明を突っ込んでくる。
熱い。触手が焦げて、黒い粘液がドロドロ落ちる。
オレはもっと霧を噴くけど、四角いところじゃ広がらない。
ニンゲンたちが笑う。
「こいつ、弱いぞ!」と声がする。
オレは弱くない。
火がなければ、ニンゲンなんて簡単に喰える。
でも、火は熱い。
触手が縮んで、体が重くなる。
オレは丸まって、動かなくなる。
ニンゲンたちが鉄の棒を叩いて、うるさい音を立てる。
オレは目を閉じる。
暗い。静かになってほしい。
ニンゲンは可愛いけど、うるさい。
柔らかいけど、火を持ってくる。
オレはニンゲンが大好きだ。
でも、今は嫌いかもしれない。
ーーーーーーーーー
暗い道に這い出る。
ニンゲンたちが追いかけてくるけど、オレは臭いゴミの中を滑る。
ゴミが体にくっついて、臭い。
気にしない。柔らかいニンゲンを喰うためなら、臭くてもいい。
暗い穴に隠れて、ニンゲンの声が遠くなるのを待つ。
でも、ニンゲンはしつこい。
松明の光がまた近づいてくる。
オレは這う。もっと暗いところへ。
足音が聞こえる。新しいニンゲンだ。
オレは一つ目でそいつを見る。
長い金髪が揺れてる。赤い目が光ってる。
黒と赤の布をまとった女だ。
顔が白くて、薄い口が笑ってる。
きれいなニンゲンだ。柔らかそうで、美味しそう。
オレは触手を伸ばそうとする。
でも、女が何か持ってる。鎖だ。
キラキラした鎖。鋭い鉄じゃないけど、オレを縛る気らしい。
女の後ろにニンゲンたちがいる。
松明を持って、オレを睨んでる。
「こいつは商品になる」と女が言う。
ニンゲンたちがうなずく。
商品って何だ?
オレは喰うだけだ。柔らかい肉があればいい。
女が近づいてくる。
鎖を手に持って、オレに投げる。
冷たい鎖が触手に絡まる。
オレは触手を動かすけど、鎖が重い。動けない。
「お前は私の物だ」と女が笑う。
赤い目がオレを見る。きれいだけど、冷たい。
ーーーーーーー
女がニンゲンを連れてくる。
動かなくなったニンゲンだ。
腕が細くて、顔が白い。
「喰べなさい」と女が言う。
オレは触手を伸ばす。
鎖が邪魔だけど、なんとか届く。
ニンゲンの首をつかむ。細い。グキッと折れる。
血が流れて、赤い。
オレは舐める。甘い。少し冷たいけど、柔らかい。
皮を剥ぐ。ビリッと裂けて、白い肉が見える。
歯を立てる。汁が口に広がる。美味しい。
オレは満足する。
女がオレを見る。
赤い目が光ってる。
「いい子ね」と呟いて、触手を撫でる。
冷たい手だ。でも、触れると温かい。
オレは初めて「温かい」と感じた。
ニンゲンの手は柔らかいけど、こんな感じは初めてだ。
オレは触手を動かす。
女の手を絡めようとするけど、鎖が締まる。動けない。
女が笑う。
「悍ましいのに可愛いね」と言う。
悍ましいって何だ? 可愛いって何だ?
オレはニンゲンを喰うだけだ。
柔らかい肉が好きだ。
それなのに、女はオレを縛る。鎖が冷たくて、重い。
女の後ろにいたニンゲンが言う。
「キャサリン様、こいつは売れませんぜ。あまりに悍ましい。買い手がつかねえ。」
キャサリンって何だ? 女の音らしい。
ニンゲンは妙な音をつける。オレにはわからない。
キャサリンが冷たく笑う。
「なら私が引き取るよ。役に立つからね」と言う。
役に立つって何だ?
オレは喰うだけだ。柔らかい肉があればいい。
キャサリンが鎖を握る。
オレを四角いところに閉じ込めたまま、またニンゲンを連れてくる。
「こいつは売れ残りだ。喰え」と言う。
オレは触手を伸ばす。首を折る。血を舐める。柔らかい。美味しい。
キャサリンがオレを見て笑う。
「いい子だ」と鳴く。が触手を撫でる。温かい。オレは「キャサリンを喰いたい」と思う。金髪が柔らかそうで、赤い目が美味しそう。
でも、鎖が締まる。
喰えない。
ーーーー
オレはニンゲンが大好きだ。
柔らかい肉が好きだ。
キャサリンは柔らかそう。でも、喰えない。鎖が邪魔だ。
オレは触手を壁に叩きつける。
バン、バンと音がする。
キャサリンが笑う。
「落ち着きな、タリー」と言う。
タリーって何だ? オレはオレだ。
ニンゲンを喰うオレだ。
それなのに、キャサリンは妙な音をつける。
オレにはわからない。
キャサリンが毎日ニンゲンを連れてくる。
売れ残りだ。動かなくなったニンゲンばっかりだ。
オレは触手を伸ばして首を折る。
血を舐める。皮を剥ぐ。肉を喰う。
「柔らかいのがいい」とオレは思う。
でも、硬いニンゲンでも喰う。キャサリンがくれるから。
夜になると、キャサリンが近づいてくる。
金髪が揺れて、赤い目が光る。
触手を握る。「タリー」と鳴く。
タリーって何だ?
オレは柔らかい肉を喰うオレだ。
それなのに、キャサリンは妙な音をつける。
オレはわからない。
ある日、キャサリンが新しいニンゲンを連れてくる。
動いてるニンゲンだ。
顔が青くて、目が濡れてる。
「やめてくれ!」と鳴く。小さくか細い声だ。オレは好きだ。
キャサリンが冷たく笑う。
「こいつは裏切った。喰え」と言う。
裏切るって何だ? オレはわからない。
オレは触手を伸ばす。
ニンゲンが逃げようとする。
鎖がゆるんで、触手が届く。
首をつかむ。グキッと折れる。
血が流れる。温かい。
オレは皮を剥ぐ。ビリッと裂けて、白い肉が見える。
歯を立てる。柔らかくて、汁がいっぱい。新鮮だ。美味しい。臭いところは捨てる。
キャサリンが「よくやった」と笑う。
金髪が揺れて、赤い目が光る。
触手を撫でる。温かい。
オレは「キャサリンを喰いたい」と思う。
でも、喰えない。鎖が締まる。
キャサリンが近づく。「タリー」と鳴く。
オレは「また妙な音だ」と思う。
オレはオレだ。ニンゲンを喰うオレだ。
キャサリンが触手を握る。
「お前がいて、私は嬉しい」と鳴く。
赤い目が濡れてる。
オレは「キャサリンを喰いたい衝動」を感じる。
金髪が柔らかそうで、美味しそう。
でも、喰ったらなくなる。
オレは触手を引っ込める。
キャサリンが笑う。
「いい子だ、タリー」と言う。
温かい手が触手を滑る。
オレは「喰いたい」を抑える。初めてだ。
ニンゲンを喰うだけなのに、キャサリンは違う。
オレはわからない。
でも、キャサリンの手が温かい。
オレはニンゲンが大好きだ。
毎日肉をくれるし、温かいし、「タリー」と可愛い声で鳴くから好きだ。
ーーーーーーーーーーー
キャサリンの隠れ家に閉じ込められて、オレは動けない。
四角いところだ。
キャサリンがキラキラした鎖でオレを縛る。
鎖が冷たくて、重い。嫌いだ。
でも、キャサリンがオレを連れ出す。
暗い道を這う。
キャサリンがニンゲンたちと会っている。
うるさい。
きっとキャサリンを喰うやつだ。
オレだって喰いたいのに、ずるい。
キャサリンが言う。
「お前は私の護衛だ、タリー」と可愛い声で鳴く。
オレは「タリーって何だ?」と思う。
オレはオレだ。ニンゲンを喰うオレだ。
でも、キャサリンの声は温かい。
ニンゲンたちがキャサリンを睨む。
鋭い鉄を持ってる。キラキラしてる。
オレは触手を伸ばす。鎖がゆるんで、届く。
一人のニンゲンの首をつかむ。
グキッと折れる。血が流れる。温かい。
オレは喰う。皮を剥ぐ。
ビリッと裂けて、白い肉が見える。柔らかい。
歯を立てる。汁が口に広がる。美味しい。
キャサリンが笑う。
「私のタリーは最高だ」と鳴く。
赤い目が光る。金髪が揺れる。
ニンゲンたちが叫ぶ。
「化け物だ!」と鋭い鉄をオレに突き刺す。
硬い刃が黒い粘液を切る。少し痛い。
オレは触手を振り回す。
もう一人のニンゲンを絡める。首を折る。
血が飛び散る。
キャサリンが近づく。
金髪がオレの黒い粘液に絡まる。
柔らかくて、いい匂いがする。
オレは触手を伸ばす。
金髪をつかんでこっそり食べる。
至高の味だ。甘くて、美味しい。
オレは「キャサリンを全部喰いたい」と思う。
でも、喰ったらなくなる。
キャサリンがオレに抱きつく。
「お前は私だけの宝物だ」と鳴く。
赤くて可愛い目が濡れてる。
温かい体がオレに触れる。柔らかい。
オレは触手をキャサリンの金髪に巻く。
もっと喰いたい衝動が湧く。
でも、「キャサリンは喰いたくない」とオレは思う。
キャサリンがいないと、ニンゲンをくれるニンゲンがいなくなる。
オレは触手を引っ込める。
キャサリンが笑う。
「いい子だ、タリー」と可愛い声で鳴く。
温かい手が触手を撫でる。
オレはニンゲンが大好きだ。
美味しいし、いい匂いがするし、可愛い声で「タリー」と鳴くから好きだ。
でも、喰ったらなくなる。
オレは、キャサリンは喰わない。
ーーーーーー
キャサリンがオレを連れ出した。
いつもより早く、遠くへ。
暗い道を這う。
ニンゲンたちが松明を持って近づく。
「化け物を殺せ!」と叫ぶ。
キャサリンがオレを見る。
「タリー、守って」と可愛い声で鳴く。
オレは触手を伸ばす。鎖がゆるんで、届く。
一人のニンゲンの首をつかむ。
グキッと折れる。血が流れる。温かい。
オレは喰う。皮を剥ぐ。
ビリッと裂けて、白い肉が見える。柔らかい。
歯を立てる。汁が口に広がる。美味しい。
キャサリンが笑う。
「私のタリーは最高だ」と鳴く。
金髪が揺れる。赤い目が細まる。
キャサリンがオレの触手に触れる。
温かい手が滑る。
オレは「キャサリンを守りたい」と思う。
変だ。ニンゲンは喰うだけのものなのに。
ニンゲンたちがもっと来る。
一人が叫ぶ。
「恋人を喰った化け物と、それを匿う女を許さない!」
鋭い鉄を握り潰しそうに持ってる。
目の白いところが赤くて、顔が歪んでる。リーダーだ。
ニンゲンたちがオレに鋭い鉄を突き刺す。
キラキラしてる。
硬い刃が黒い粘液を切る。痛い。
オレは触手を振り回す。
ニンゲンを絡める。首を折る。血が飛び散る。
でも、リーダーがキャサリンに鋭い鉄を刺す。
キャサリンが血を流す。
金髪が床に落ちる。赤い目が濡れてる。
キャサリンがオレに触れる。
「タリー、大丈夫?」と可愛い声で鳴く。
温かい手が震える。
オレは「キャサリンを喰いたい衝動」を抑える。
喰ったらなくなる。
キャサリンが倒れ、指さす。
「タリー、喰え」
血が口から溢れる。
オレは触手を伸ばす。
リーダーの首をつかむ。
グチャッと粉砕する。
血と肉が飛び散る。柔らかい。オレは喰う。
でも、キャサリンが動かなくなる。
オレは触手でキャサリンを抱く。
温かい。まだ柔らかい。
キャサリンが小さく鳴く。
「大好きだよ」
可愛い、本当に可愛い声だ。
キャサリンのいいところは可愛い声だ。
赤い目が閉じる。
キャサリンのいいところは綺麗な赤い目だ。
キャサリンを喰うしかない。
キャサリンのいいところは温かいところだ。
キャサリンのいいところは柔らかいところだ。
冷たくしてはならない。硬くしてはならない。
触手を金髪に巻く。
柔らかくて、いい匂い。至高の味だ。
キャサリンのいいところは柔らかい髪をもつところだ。
オレは舐める。甘い。
歯を立てる。白い肉が裂ける。
血が流れる。温かい。
甘くて、美味しい。汁が口に広がる。
キャサリンのいいところは温かい手だ。
キャサリンがオレに触れてた。
温かい手が触手を撫でてた。
「タリー」と可愛い声で鳴いてた。
金髪がオレの触手に絡まってた。柔らかい。
キャサリンのいいところは……ーーーーーー。
オレはキャサリンを喰う。
内臓を裂く。
ドロドロしたものが溢れる。臭い。
でも、捨てない。全部喰う。
キャサリンがなくなるのは嫌いだ。
オレは血を舐める。温かい。
キャサリンの金髪を触手に絡める。柔らかい。
一つ目から水が滴る。変だ。
オレはニンゲンを喰うだけなのに。
キャサリンは宝物だった。
「タリー」って何だ? わからない。
でも、キャサリンが鳴いてた。温かかった。
ーーーーー
ニンゲンたちが逃げる。
松明が遠くなる。
四角いところが静かになる。
血と鎖が床に残る。
キャサリンがいない。
キャサリンを守れなかった。
変だ。ニンゲンは喰うだけのものなのに。
オレはキャサリンの血を飲み干し、最後の温もりを触手で抱いた。
柔らかい肉がなくなった。
オレは四角いところから這い出す。
暗闇へ消える。
ニンゲンの血の匂いが遠くに残る。
オレは触手を伸ばす。
もっとニンゲンを喰いたい。
柔らかい肉が欲しい。
でも、キャサリンはもういない。
オレはニンゲンが大好きだ。
ニンゲンは可愛いし、柔らかくて美味しい。
食べようとすると「大好きだよ」と小さくか細い声で鳴くから。
オレもキャサリンが大好きだ。
いつもはギャグ書いてますが、こっち系のほうが人気なのかもしれない、と思い立ち書き始めました。習作です。
連載「星の魔女リナはエリクサーが作りたい!」執筆中!
是非プロフィールまで飛んで読んでください。