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9:試練の時

 涼太と優の関係は日々深まっていった。しかし、二人の間に暗雲が立ち込めることになる。ある日、学校で新たな問題が発生したのだった。


 放課後、涼太と優はいつものカフェに向かう途中、偶然、優の元カレである悠斗ゆうとと遭遇した。悠斗は東京から転校してきたばかりで、どこか余裕のある雰囲気を漂わせていた。優が少し驚いたように息を呑み、涼太もその気配を感じ取った。


「お、お久しぶり、優。」


 悠斗は少し照れくさそうに言った。


「久しぶりだね。」


 優は一瞬、気まずそうに言葉を選ぶ。彼女の表情にはわずかな戸惑いが浮かんでいた。涼太はそのやり取りを見守りながら、少しだけ胸が痛むのを感じていた。


「悠斗…。久しぶり。」


 優はそう答えたが、涼太の方を見ることなく、少し俯いていた。


 悠斗は涼太に気づくと、にこやかに笑った。


「君が涼太くんだね。優から話は聞いてるよ。二人、いい雰囲気だね。」


 涼太はその言葉を聞いて一瞬心がざわついたが、表情を崩さずに軽く頷いた。


「あ、ありがとうございます。」


 悠斗はそのまま少し間をおいてから、涼太に対して挑戦的な視線を送った。涼太はその目に気づき、少しだけ警戒心を強めた。


「それで、優とどうなったんだ?」


 悠斗は涼太に向かって冷静に質問を投げかけた。


 涼太は一瞬驚き、心の中で何かが引っかかった。だが、優のためにも、このまま悠斗に何か言い返すのは良くないと思った。彼の前で冷静でいなければならない。


「僕たちは、まだ一緒に過ごす時間が少ないけれど…お互いを大事に思ってる。」


 涼太はそう答えると、優をちらりと見た。優は涼太の目を見て、少し安心したように微笑んだ。


 悠斗は涼太の言葉に少しだけ笑みを浮かべた。


「そうか、君がそんなに真剣なら、安心だね。でも、優にとっては、僕の存在は忘れられないかもしれないよ。」


 その言葉に涼太は胸の中で怒りを感じたが、ぐっと抑えた。優は明らかに動揺していた。その表情が涼太の心をかき乱す。


「悠斗…」


 優は静かに言った。


「私はもう過去を引きずるつもりはない。涼太と一緒にいることが、私の今だよ。」


 優のその一言が、涼太にとって何よりも大きな支えになった。悠斗はそれを聞くと、少し驚いた顔をしたが、すぐに肩をすくめて立ち去った。


「わかったよ。まあ、頑張ってね。」


 悠斗は最後にそう言って、二人の前から去っていった。


 涼太は優を見つめ、その目に浮かぶ微かな不安を感じた。


「優、大丈夫か?」


 優は少し沈黙した後、涼太の目を見て微笑んだ。「うん、大丈夫。ありがとう。」


 だが、涼太の心にはまだ不安が残っていた。優が悠斗のことを完全に忘れられていないのではないか、という疑念が消えなかった。今まで順調だった二人の関係が、初めて試される瞬間が訪れたのだった。


 カフェに着いた後、二人はいつものように座ったが、涼太はどこか落ち着かない気持ちを抱えていた。優はそのことに気づいていたが、何も言わずに黙って飲み物を手に取った。


「涼太、私も少し怖い。」


優がぽつりとつぶやいた。


「悠斗と再会して、私も昔のことを思い出してしまった。でも、今の私にとって大事なのは涼太だけ。だから、これからも一緒に歩んでいきたい。」


 涼太はその言葉を聞いて、少しだけ安心した。そして、強く決意を固めることができた。


「僕も、君だけだよ。これからも一緒にいるから。」涼太は優の手を握り、しっかりと伝えた。


 二人はその日、少しの間黙っていたが、お互いの存在を感じながら、静かな時間を共有した。試練を乗り越えた後、涼太と優は、これからも共に歩んでいく決意を新たにしていた。

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