4:心の距離
涼太と優が気持ちを伝え合った後、二人の関係は少しずつ変わっていった。最初はぎこちなかった会話も、今ではお互いに自然に笑い合えるようになっていた。だが、涼太は時折、自分の気持ちが本当に優に届いているのか、不安になることがあった。
その日、放課後の教室で涼太は一人で課題に取り組んでいた。まだ日が長い午後の光が教室の窓から差し込み、静かな空気が漂っている。ふと、隣の席から聞こえてきた優の声に、涼太は顔を上げた。
「涼太、終わった?」
優が涼太の隣に座り、にっこりと微笑んだ。その笑顔は、いつものように優しさに満ちていた。
「うん、もうすぐ終わるよ。」涼太は少し照れくさそうに答えた。
優は涼太の顔をじっと見つめ、少し真剣な表情に変わった。「ねえ、涼太、私、前から思ってたんだけど……」
涼太はその言葉に耳を傾け、少しだけ心臓が早く打ち始めた。「何?」
「私たち、なんか不思議な感じだよね。」優は目を細めて言った。「最初は全然話すこともなかったし、今もなんだかお互いに照れくさいよね。」
涼太はうつむきながら答えた。「うん、確かに。でも、照れくさいけど、悪い気はしないよ。」
優は少し黙り込むと、窓の外を見ながらつぶやいた。
「でも、私、なんか怖いんだ。」
涼太はその言葉に驚いた。優が怖がっているなんて、思いもしなかった。
「怖い?」
涼太は声を震わせて聞いた。
「優が?」
優はこくりと頷き、静かに続けた。「だって、私が涼太を好きだって分かってるのに、涼太が私を好きな理由が、まだよく分からない。もしかしたら、ただの優しさで、私のことを大切に思ってくれているだけかもしれないって思うと……不安になるの。」
涼太はその言葉に胸が痛んだ。優が自分の気持ちに不安を感じているなんて、まったく思わなかったからだ。
「優、俺……」
涼太はゆっくりと口を開いた。
「俺は、優が好きだよ。最初はただの友達だと思ってたけど、だんだんと優のことが気になって、気づいたらこうして一緒にいることが当たり前になってた。だから、俺の気持ちは本物だよ。」
優は涼太の言葉をじっと聞いていた。そして、少しだけ涙を浮かべながら、優しく微笑んだ。
「ありがとう。涼太のその言葉、すごく嬉しいよ。」
涼太の心は一瞬で温かくなった。優の不安が少しでも解けたのだと思うと、胸の中でほっとした気持ちが広がった。
その後、二人は少し無言で過ごしたが、涼太はふと気づいた。優が言っていた通り、まだ二人の関係はぎこちなく、時々不安や緊張が入り混じっている。それでも、少しずつお互いを理解し合っているのだという実感が、涼太の心に強く響いた。
放課後、教室を出た二人は、いつものように並んで帰り道を歩き始めた。今日はいつもよりも少し静かで、二人の歩幅も少しだけ狭くなっているように感じた。歩いているうちに、涼太はふと優の方を見た。
「優、明日もまた、一緒に帰ろうか?」
優は涼太の方を見て、少し照れくさそうに頷いた。「うん、もちろん。」
その言葉に涼太は微笑んだ。何も言わずとも、二人の気持ちが通じ合っていることが、自然と感じられた。
そして、二人は少しずつ歩を進め、日が沈んでいく中、また一歩、心の距離を縮めていった。