3:告白の予感
翌日、涼太は少し早めに登校した。いつものように教室に向かう途中、校庭で朝比奈優が一人で座っているのを見かけた。いつもクラスメートたちに囲まれている優が、今日は誰とも話していない。その姿が、涼太の心にひときわ大きな印象を残した。
「優、どうしたの?」
涼太は思わず声をかけた。
優は軽く顔を上げ、驚いたような表情を浮かべたが、すぐに柔らかい笑顔を見せた。
「あ、涼太……おはよう。」
優はおずおずと手を振り、涼太の前に座っていたベンチを指さした。
「一緒に座ってもいい?」
「うん。」
涼太は少し緊張しながらも、隣に座った。朝の空気はひんやりとして、二人だけの静かな空間が広がっていた。
「最近、なんだか忙しくてね。こっちの生活に慣れるのが、思ったより大変だった。」
優は小さなため息をつき、遠くを見つめた。
「そうだよね、急に転校してきて、色々と気を使うことも多いだろうし。」
涼太は自然と優の気持ちを思いやった。
優はうなずきながらも、どこか遠くの世界を見つめているような表情をしていた。その姿に、涼太は不安を感じた。彼女が一人で抱えているものが、何かあるのだろうか。それを知りたかったが、どう聞けばよいか分からず、ただ沈黙が流れる。
やがて、ベルが鳴り響き、登校の時間が来た。涼太は立ち上がり、優に向かって言った。
「今日は、また一緒に帰ろうか?」
優は少し驚いたように顔を上げ、その後微笑みながら頷いた。
「うん、ありがとう。」
放課後、涼太はいつものように優を待ちながら教室の外で立っていた。やがて、優が静かに歩いてきた。二人は並んで帰り道を歩き始めたが、今日は何だかいつもよりも空気が重く感じられる。
「涼太、最近どう?」
優が突然言った。その声に、涼太は少しだけ驚き、視線を下に向けた。
「うん、まあ、普通だけど……」
涼太は答えながらも、心の中で何かが高鳴っていた。優の目が自分をじっと見つめていたからだ。
「本当に、普通なんだ。」
優が不思議そうに言った。その言葉に涼太は思わず息を飲む。
「それって、どういう意味?」
涼太は少し緊張しながら問い返した。
優は少し黙り込むと、しばらくしてからぽつりと言った。
「涼太って、どんな時も優しすぎて、何かを隠してるように感じる。君が本当はどう思ってるのか、ちょっと分からない。」
その言葉に涼太は動揺した。優が自分の心を見透かしているような気がして、どうしていいかわからなくなる。
「え、俺……何も隠してないけど。」
涼太は必死に言葉を並べたが、その目線がどこかそらしがちだった。
「そう……」
優は微笑みながら、少し寂しそうに言った。
「でも、涼太が優しすぎて、少し怖いんだよね。」
その言葉に、涼太は心臓が高鳴るのを感じた。彼女が自分に何を期待しているのか、涼太には分からなかったが、少なくとも彼女の心の中には、自分を気にかけてくれているという事実があった。
「怖い?」
涼太は心の中で何かを決心した。その瞬間、勇気が湧いてきた。
「優、俺……実は、ずっと伝えたかったことがあった。」
涼太は顔を赤らめながらも、ゆっくりと言葉を続けた。
「優のこと、俺、好きだ。君が転校してきてから、ずっと気になってた。だから、今、ちゃんと伝えたくて。」
優は驚いたように目を見開き、しばらく沈黙が流れた。その時、涼太は自分の心臓がうるさく響くのを感じていた。
「涼太……」
優が静かに、少しだけ涙を浮かべた目で涼太を見つめた。そして、優の唇が震えながらも微笑んだ。
「ありがとう……私も、涼太が好き。」
その言葉に、涼太は思わず目を閉じ、心の中で歓喜を感じた。彼の胸の中の緊張は、一瞬で解けた。
二人は、やっとお互いの気持ちを確認し合った瞬間だった。それは、まだ始まったばかりの物語の中で、一番美しい瞬間だった。