1:運命の出会い
2作品目です。
地方の田舎町にある静かな高校。校舎裏には田園風景が広がり、春風が緩やかに吹き抜けていた。その朝、主人公・坂井涼太は、いつも通り眠そうな目をこすりながら教室へ向かっていた。特に目立つわけでもなく、普通の高校生活を送る彼にとって、今日も変わらない一日になるはずだった。
ところが、教室の扉を開けた瞬間、周囲のざわめきが耳に飛び込んできた。視線が自然と教壇へと向かう。そこには、都会的な雰囲気をまとった美しい少女が立っていた。整った顔立ちに、艶やかな黒髪。そして、どこか冷たさを感じさせる端正な表情。
「皆さん、今日からこのクラスに転校してきました、朝比奈優です。よろしくお願いします。」
澄んだ声が教室に響くと、男子生徒たちの間で歓声が上がった。涼太は、その光景をぼんやりと眺めていた。
「またすごい人が来たな……」
それが彼の率直な感想だった。しかし、優がこちらを見つめた瞬間、涼太はなぜか心臓が跳ねるような感覚に襲われた。特に目立たない自分が見られるわけがない。そう思いながらも、なぜか目を逸らせなかった。
その日、彼女は涼太の隣の席に座ることになった。授業中、ふとした拍子に筆箱を落とした涼太。それを拾おうとした瞬間、優の手と触れ合った。
「あ……ありがとう。」
「どういたしまして。」
ごく短い会話。しかし、そのやりとりだけで涼太の心は妙に騒がしかった。
昼休み。クラスメートたちが優に話しかける様子を眺めながら、涼太は一人で昼食をとっていた。
「都会から来た人なんて、俺とは縁がないよな……」
小さくため息をつく。しかし、ふいに足音が近づき、涼太の視界に優が現れた。
「ここ、空いてる?」
「え……?」
驚きながらも頷く涼太。優は静かに腰を下ろし、お弁当の包みを広げた。
「この学校、静かでいいね。都会の喧騒とは全然違う。」
優がぽつりと呟く。その言葉に、涼太は少し安心した。どうやら彼女も、この田舎町に馴染もうと努力しているらしい。
「ここ、何もないけど……悪くないよ。」
「ふふっ、確かに。」
優が初めて柔らかく笑った瞬間、涼太の胸が熱くなった。
その日を境に、二人の距離は少しずつ縮まっていく。しかし、まだお互いの心には壁が残っていた。涼太は彼女の気高さに圧倒され、優はどこか孤独を抱えているように見えた。
それでも、どこか不器用ながらも惹かれ合う二人。この出会いが、やがて運命の歯車を回し始める――。