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第17話 世良田二郎三郎、火薬を買う

 本願寺が講和を結んだことで、一番のお得意先を失った瀬名屋は窮地に陥っていた。


 元々は二郎三郎が商家を始めるにあたり、膨大な需要と金を持っている者として本願寺を商売相手に選んだのだが、ここにきてその前提が崩れてしまった。


 講和を結んだことで自由に商家との取引ができるようになり、なおかつ人の往来が可能となったことで本願寺の物資不足は過去のものとなり、瀬名屋から買い付ける必要性が薄れてしまったのだ。


「これまで世話になったな」


 本願寺の法主、本願寺顕如が口を開く。


「我らがここまで持ちこたえられたのは、他ならぬ貴殿のおかげよ。改めて礼を申そうぞ」


「頭を上げてくだされ、法主様」


 二郎三郎に促され、本願寺顕如が頭を上げる。


「それにしても、外はえらい騒ぎですな。まるで祭りだ」


 二郎三郎の視線の先では、本願寺の門徒たちが蔵から荷を運び出し、ある者は籠城用に組み立てたであろう逆茂木を分解している。


「講和の条件だ。ここを退去せねばならなくなったのでな。……こうして、持てる物はすべて運び出そうというわけよ」


「難儀なものですな」


 二郎三郎が苦笑する。


 寄進された銭はもちろん、兵糧米や鉄砲、鉛玉や火薬に至るまで、すべて本願寺の持ち物だ。


 これを置いてしまえば、織田にいいように使われることは目に見えていた。


 そのため、移転先である紀伊鷺森御坊に運び出そうとしていたのだ。


「……ちなみに、鷺森に移られたのちは再び信長と戦うおつもりは?」


 二郎三郎の問いに本願寺顕如が不敵な笑みを浮かべる。


「信長が仏敵となるなら……と言いたいところだが、此度の戦で身に染みたよ。……天下を取るのは間違いなく信長だ。浅井や朝倉の二の舞になりたくないからな。我らはおとなしく念仏でも唱えているとしよう」


「……では、そんな法主様に一つ、耳よりな話がございます」


「なんだ、申してみよ」


「本願寺の持つ鉄砲や火薬、鉛玉を我らが高く買い取りましょう」


 二郎三郎の提案に、本願寺顕如が大笑いした。


「クハハ! 何を申すかと思えば……つくづく商機を突くのが上手い男だな、お前は! ……たしかに、我らは信長との戦を見越して大量の武具を揃えた。しかしこちらも、戦に備えぬわけにはいかないからな」


「……されど、法主様は信長と戦うつもりはないと仰せられた」


「こちらからはね。……信長に攻められた時は無抵抗に死んでやるつもりはないぞ。必ずや信長を地獄に落としてくれるわ」


「……では、信長が本願寺に攻められぬとしたらどうでしょう?」


 二郎三郎の言葉に、本願寺顕如が首を傾げた。


「……どういうことだ?」


「現在、信長は畿内を押さえ、日ノ本の中心を手に入れた。……つまりは堺や京に通じる主要街道を押さえたということ。こうなれば、東国の大名は火薬を手に入れるのが難しくなりますな。……なにせ、火薬の原料の硝石は南蛮貿易で手に入れるしかないのですから」


 ここにきて、二郎三郎の目的を見抜いた本願寺顕如が声を上げた。


「お前……今度は武田や上杉相手に密輸しようとしているのか!」


 二郎三郎がニヤリと笑みで答えると、本願寺顕如が再び大笑いした。


「クハハハハ! つくづく面白い男だな、お前は!」


「はて、売れるものを商うのが商いの基本にございますゆえ」


 とぼけた様子の二郎三郎。


 しかし、二郎三郎のやろうとしていることは、たしかに理に適っている。


 火薬や鉛玉を求める東国大名にそれらを供給すれば、間違いなく利益が出せるだろう。


 ましてや、相手は信長によって戦略資源が禁輸されている身。高値で取引されるのは間違いない。


「面白い、気に入った! 存分に商うがよい」


「ははっ」


 こうして、本願寺顕如の許可を得た二郎三郎は、手始めに武田との関係を結ぶと大量の火薬と鉛玉を供給した。


 それと引き換えに、武田からは有り余る金をかき集め、再び大きな利益を上げたのだった。

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武田に内通してるってイチャモンつけるなら本当に内通したろかムーブ
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