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悪役王弟だが王都を追放されたので王位を簒奪することにした  作者: CJギガ
第一章  謎の聖女と陰キャの王弟
8/47

3-3

「よかったんですか、メイドさんを返してしまって」


「いいんだよ。ずっと見られていたら、落ち着かないし。アリシアも出てこられないだろ。……給仕の人を返すのが王族らしくないとしても、さっき応対でミスったから、もう怪しまれているよ。だったら好きなように食ったほうがいい」


「そういやそうですよね。どのみち追放されるんだから、一つ怪しいも二つ怪しいも同じですよ。ポッポッポ」


 アリシアは笑うような鳴き声を出したあと、ぴょんと椅子に飛び乗った。


「メイドさん、たぶんお礼を言われて驚いたんだと思いますよ。ギルロード殿下、無口な人だったみたいだから」


「本物ギルロードを知っているのか、アリシア?」


 アリシアは、かわいらしく首をかしげる。


「いいえ、ちょっとだけ噂を聞いただけですよ。クルルッポポー。あまり人を寄せ付けないタイプだったみたいです。メイドさんにお礼とかも、言わなかったんじゃないですか? 王族や貴族には珍しいことではありません」

「あー、そっちかー」


 やはり自分には、王侯貴族の真似は難しかったらしい。


(でも追放されたら平民みたいなものだし、無理せず普通にしてればいいか)


「それより朝食にしましょう、クルッポー。早く食べないと冷めますよ」


 アリシアは目を輝かせながら、テーブルのそばへ行き、二つある椅子の片方に飛び乗った。


「しっかり食べておいたほうがいいですよ。王宮を出たら、こんな豪華な食事はできませんからね。ポポー」


 啓助も椅子に座る。


「追放される罪人にしては、いいメシ食わせてくれるよな」


「扱いは一応、転勤みたいなものですからねえ。王弟の身分を剥奪されたわけではないですから、それなりの扱いを受けているんだと思います」


 いい香りが鼻をくすぐった。

 しかしギルロード自身の身体の都合なのか、情報の洪水に飲まれていっぱいいっぱいになっているせいなのか、食欲が湧かない。


 一方アリシアは、前足をテーブルクロスに置き、ギラギラとしたまなざしで見つめてくる。


「ところでお食事、私にも少し分けてくれませんか? タヌキの身体って、けっこうおなかが空くんですよね。――特にそのベーコン、とてもおいしそうですねえ」


「ハトなんだったら、ベーコンより固い豆のほうがいいんじゃないのか?」


「私はタヌキですから、断然ベーコンです」


(さっきまで、ハトだって言ってたくせに……)


 啓助はフォークでベーコンを刺した。ティーカップをどけてソーサーの上に、ベーコンを置く。


「塩味ついてるけど、タヌキ的には大丈夫なのか? 生肉のほうがいいだろ」


「おかまいなく。味付き肉、どんと来いですよ! あとは聖女パワーでなんとかします」


 アリシアはベーコンにかじりついた。

 とたんに、うっとりした目になる。


「クルポー、お肉おいしい……おいしい……。これが命のおいしさ……。タヌキの身体で食べたほうが、おいしい気がする……」


 一瞬で食べきったあと、前足で別の皿を指す。


「ついでにそちらのおいもも、いただけたらと思います。できれば二種類ともお願いします」


 アリシアは丁寧な言葉遣いで、しっかりと要求してきた。

 啓助は言われるがままに、二種類のイモを皿の上に載せる。

 こちらも、一瞬でアリシアの腹の中に消えた。


「クルッポフー……」

 アリシアは心底幸せそうな顔になる。


「おいも1も、おいも2もおいしいけれど、特においしいのは、おいも2のほうですね」


 イモをこれほどおいしそうに食う生き物を、啓助は見たことなかった。

 アリシアは、うっとりした顔で続ける。


「おいも1は北のほうでも採れるけど、おいも2は南のほうじゃないと採れないんですよ。だからちょっと高いんですけど、王宮ではたくさん食べられるんですねえ」


 あまりにもおいしそうに食べるので、啓助も食べ比べてみた。

 上品な味付けだが、同時にとてもよく知っている味である。


「アリシア。おいも1をジャガイモ、おいも2をサツマイモって言葉に置き換えてくれ」

「はーい」


 単語は即座に置き換わった。



「南の島へ行ったら、サツマイモをいっぱい作って食べましょうポポー」



 アリシアの目は、キラキラと輝いた。


「俺も、もうちょっと食うか」


 啓助はスープを飲もうと、スプーンを取り上げる。

 曇り一つない、美しい銀食器である。自分の顔すら映るほど磨き抜かれていた。



(……あれ?)



 啓助はスプーンに映った自分の顔を凝視する。


(俺ってもしかして……)


 啓助は立ち上がった。


「か、鏡!」

「隣の部屋に殿下専用の洗面所がありますよう」


 啓助は洗面所に飛び込むと、大きな鏡の前に立った。



「う……わ、マジか……。超イケメンかよ、俺……!」



 鏡に映っていたのは、紫を帯びた深い青色の髪を持つ、美しい青年だった。


 陽光を避けていたかのような肌は透き通るように白く、通った鼻筋と細い唇は兄である国王に似ている。


 セルリアンブルーの目は南国の海を思わせるが、どこか暗い光を帯びていた。


 耳には、瞳の色に近い青色をした、石のピアスがある。金色の星屑のような模様があるので、おそらくラピスラズリだろう。


 痩せているせいで神経質そうに見えた。


 しかしそれは、ささいな欠点に過ぎず、町を歩くと誰もが振り返る美しさに違いない。




「い……イケメン、大勝利ってやつ……?」



 啓助の呟きに、いつの間にか洗面所に来ていたアリシアが答える。


「殿下の母君――王太后陛下は、かつて国一番の美女と言われていました。いまでも本当にお美しいですよ。お亡くなりになった前国王陛下も、なかなかの美丈夫でした」


「美男美女の家系かよ」


 驚きとやっかみが入り交じるが、アリシアは呑気に毛繕いをしている。


「よくあることですよ。貴族でも大商人でも、先祖代々伴侶に美しい人を選んでいたら、子孫も綺麗な人ばかりになってゆきます」


「そういやアラブの王族が女優と結婚して、綺麗な子供ができているって話、ネットニュースで見たなあ」


 身分の高い者は、政治的なつながりや資産によって、結婚相手が決まる。

 しかし同じぐらいの身分や資産の持ち主がいたとき、選ばれるのは容姿が美しいほうだろう。性格を知る前に結婚相手が決まる場合は、なおさらだ。


「お兄上――国王陛下も容姿は美しいかただったでしょう? ギルロード殿下も同じご両親から生まれたのですよ」


「あっちのほうが、ラスボスっぽい顔だけどな」


 啓助は鏡の前で角度を変えながら、自分の顔を観察する。


「でも俺の顔も、陰キャでひねくれたヤツって感じがするよな。『なんかつまんねー』って、毎日言ってそう」


「中身が貴方なのですから、じきに表情も変わりますよ。クルッポー」


 アリシアは後ろ足で耳を掻いたあと、不思議そうに訊いてくる。


「ところで、ずっと気になっていたのですが、貴方はどうしてこの世界のこと、いまだに何も知らないって感じなのですか?」




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