表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役王弟だが王都を追放されたので王位を簒奪することにした  作者: CJギガ
第一章  謎の聖女と陰キャの王弟
6/47

3-1 聖女、タヌキ的な何かに乗り移る


 目が覚めると、明るい部屋にいた。



 天井までの高さは五メートルほどだろうか。壁面には巨大な窓があり、日の光が降り注いでいる。


 啓助は豪華な天蓋付きのベッドに寝かされていた。


 服は光沢のある布で作られた部屋着である。

 昨日は玉座の間にふさわしい礼服だったので、誰かが着替えさせたのだろう。


 啓助は身体を起こし、大きく伸びをした。


(アリシアのやつ、あとでなんとかするって言ってたけど、寝ている間に全然出てこなかったな)


 てっきりスライドショーの部屋に連れて行かれて、説明されると思っていただけに、拍子抜けである。

 啓助は、ため息をついた。


(追放って、どういう手順でされるんだっけ。牢屋に放り込んでから、腕を縄で縛って場外に放り出されるとか? 町の人に石とか投げられたりして……。それとも転勤扱いになって、荷物持たされて放り出されるのか? どっちにしても放り出されるんだろうけど、いつなんだ)


 寝て起きたら城外ではないだけ、ましなのかもしれない。だがいまの状況も、刑の執行をただ待っているだけなので落ち着かなかった。



 そのとき、遠慮がちなノックの音が聞こえる。



「どうぞ」


 少しの間のあと、ドアが開いた。


「殿下……お目覚めでしたか」


 上品そうなメイドが困惑したような表情で言った。

 いまでも倒れたままだと思っていたようである。


(ギルロードにどんな持病があるか知らないけど、いつもならまだ寝込んでいるんだろうな)


「すぐにお食事をお持ちして、お医者様もお呼びします」

「あ、はい。お疲れ様です」


 反射的に啓助が言うと、メイドは驚愕の表情になった。


 その顔を見て、啓助も自分の失敗に気づく。


(会社じゃないんだから、「あ、はい。お疲れ様です」じゃないだろ!)

 啓助は慌てて言い直す。


「ええと……ありがとう」


 メイドの顔が青ざめたかと思うと、すぐに赤くなり、一礼して部屋から出て行った。



「あああ……やらかした……」


 啓助は頭を抱えて、ベッドに倒れ伏した。


「もっと威厳を持って言うべきだったのか? 『ご苦労である』とか。いや、『大儀である』のほうがいいのか? それとも王族はメイドさんにお礼言わないとか? あー、そういや入社したばっかのとき、取引先の偉い人だと知らずに『どもです』とか言っちまったことがあったなー。あのときは課長の全力フォローで笑い話で済ませてもらえたけど……」


 取り返しのつかないミスをしてしまった気がする。

 啓助は会社員時代の失敗まで思い出して、暗黒の気分になった。


「どのみち、やらかしたなあ。ていうか、ギルロードの中の人が王弟じゃないって、世間にバレたらどうなるんだ。やっぱ死刑か? あの王様、パワハラだもんな……」


 啓助は、天蓋付きベッドの長い支柱に、頭をゴツゴツぶつけた。


 そのとき――。


「ねぎらわれて嫌な人はいないと思いますよう。メイドさんも悪い気がしてないんじゃないですか?」


「うわっ!」


 独り言を聞かれているとは思わなくて、啓助は飛び上がりそうになった。


「だ、誰だ……!」

「私です。アリシア。聖女ですよう」

「アリシア……!?」


 啓助は周囲を見渡した。

 輝くような美少女の姿は、部屋のどこにもない。


 しかしいまの声は、頭の中に語りかけるものではなく、耳から聞こえたものだった。


「どこだ、アリシア」


「私、魔力の使いすぎで、元の身体に戻れなくなっています。貴方と同じ状況ですね」

「じゃあ、誰かに取り憑いているのか」

「取り憑くとは失礼な」


 アリシアは憤慨したように言う。


「ちょうど瀕死のハトがいましたので、ハトの傷を癒やして、ちょっとだけ身体にお邪魔させてもらっています。ホント、ここまで来るのが大変でした。ククルッポポー」

「やっぱり取り憑いているんじゃないか」


 啓助はベッドから降りて、窓際に寄った。


 窓からは、完璧に手入れされた西洋風の庭園が見える。

 朝の光に照らされて木々も輝いていた。梯子を持った庭師たちは、これから作業を始めるのだろう。


 しかしアリシアらしいハトの姿は、どこにもない。

(鳥だから外かと思ったが――)



「ここですよ。私はここです」


 ベッドから声がする。


 啓助はベッドの下を覗き込んだ。


 目だけ光っている黒っぽい生き物がいる。


「アリシア……?」


「はい!」


 生き物はベッドの下から、勢いよく飛び出てきた。




「聖女再び参上です! クルッポー」




 啓助は飛びついてきた生き物を、両手でキャッチした。


 焦茶色の、もふもふした生き物である。

 愛嬌のある丸い耳を持ち、目の周りの黒っぽい毛がタレ目のように見える。太い筆のようなしっぽは、先だけ墨をつけたように黒かった。


「なあ、ハトじゃなくてタヌキ……だよな」


「ハトです。クルッポ」


「いやいやいや、絶対タヌキだって!」


「ハトですよう。鳴き声が証拠です。ポポー」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ