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(王様の前で俺の悪口を言ったみたいだけど、王様の弟なんかに逆らったら、普通の貴族は処罰ものじゃないのか? それともこの国の王弟って、俺が思っているより立場が弱いのか?)
イズレイルが国王に、さらに訴えかけようとしたとき。
「ギデイン卿は余を、佞臣の甘言に乗せられる愚か者だと申すのか?」
国王に氷のようなまなざしを向けられ、イズレイルは、もう一度深く頭を垂れる。
「そのようなことは……決して……」
国王は意地悪い笑みを浮かべる。
「我が弟一人では成せぬことでも、強大な味方がいれば、話は別であろう? ……そういえばギデイン卿、そなたの父は、我が弟の後見役の一人であったな」
「我が父が謀反に加担しているとおっしゃるのですか、王よ!」
色をなすイズレイルに、国王は片手を上げて発言を止めさせた。
玉座の間に、再び沈黙が訪れた。
国王は一同を見渡したあと、重々しく告げる。
「我が弟に、南方のエルデクロウ島へ行くことを命ず」
貴族たちの顔色が変わった。堪えきれなくなったかのように、皆がざわめく。
「あのような辺境の島に……」
「王弟殿下はエルデクロウの領主になられるのか?」
「しかし島にいるのは幻獣ばかり。領民などほとんどいないという噂だぞ……」
国王は、さらに続ける。
「剣聖イズレイル・ギデイン。本日をもって、黒竜騎士団長の任を解く。そして我が弟に随行せよ。――なお、他に供は付けるな。二人だけでエルデクロウ島へ行け」
小声でささやき合っていた貴族たちの声が、一気に大きくなる。
さすがにショックを受けたのか、イズレイルも石のように固まっていた。
(なんで俺が、ヤバそうな島に追放されるんだよ!!)
啓助も思わず飛び起きそうになった。
(国王、パワハラが過ぎるだろ。だから謀反の計画なんか持ち上がるんだよ! だいたい王様っていうのは、もうちょっと思慮深いっていうか、あんまり軽はずみに他人を追放とかしないんじゃないのか? それとも昔の神様みたいに「とりあえず怪しいやつは処罰しておいて、罪があるかあとで考えよう」みたいなタイプなのか? そりゃ追放は死刑よりマシだけど……)
考えれば考えるほど、理不尽な話である。
標識が飛んできて頭を打った瞬間、魂が割れ、その魂はこねくり回された。
そして、よく知らない人間と合体させられたかと思えば、人間より化け物のほうが多い島へ追放されるのだ。
(国王に文句言って、いっそ死刑になったほうがいい気がしてきた。聖女のスライド上映会からやり直せば、もっとマシな人生を送れる気がするぞ)
啓助が立ち上がろうとしたとき。
『お待たせしましたーっ。聖女、再び参上です!』
突き抜けるような明るい声が、啓助の脳内に響き渡った。
(アリシア。俺はたったいま、男二人で辺境の化け物アイランドへ島流しという、罰ゲームが決定したんだが……)
『え、それは大変』
(食うのに困らないどころか、崖っぷちだ。ケンカを止めるとか、そんなぬるい状況じゃなかったぞ。俺の魂、また粉微塵になったらどうするんだ!)
『今回の件は、あとでなんとかしますから、もう一回寝てください』
「は?」
啓助の意識が、一気に遠くなった。完徹から寝落ちする瞬間のような、強い眠気に襲われる。
(おい待てよ、アリシア! その前に俺はパワハラ国王に文句言って……)
『いまはダメです。しばらくおとなしくしていてくださいね。……おやすみなさい、王弟殿下』
アリシアの、やさしく美しい声を聞きながら、啓助は意識を失った。