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悪役王弟だが王都を追放されたので王位を簒奪することにした  作者: CJギガ
第四章  悪役王弟、女アサシンの標的になる
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8-1 王弟、誘拐される

 ギイは()()()()()で本を読んでいた。


 正確に言うと『真っ暗な牢屋の中で、自分のアイテムコンテナに潜り込み、保管していた魔法書を開いている』のだ。


「灯りをつける方法は……あった!」


 思わず声が弾む。おまじないレベルの魔法書だからこそ、簡単で実用的な詠唱も載っていたのだ。


 牢屋で一番堪えるのが、暗闇である。

 アイテムコンテナの中は明るいが、時間がほとんど進まない。長居しても現実の時間は止まったままなので、事態を進展させるためには牢屋に戻らねばならないのだ。

 だが暗闇だけは、どうしても我慢できなかった。


 ギイはアイテムコンテナから出ると、息を整え、短く詠唱する。


光よ、灯れ(ルミナ・ライト)


 全身に魔力が駆け巡るような感覚が走る。

 ギイは成功を確信した。

 だが――。


「……あれ?」


 部屋は依然として真っ暗だ。

 何度唱えても、変化はない。


「どうなっているんだ……?」


 そのとき、牢内に甲高い笑い声が響いた。


「おー、魔法を使った感じがする。ばかだねー」

「誰だ!?」


 周囲を見回すが、闇の中に人の気配はない。


「牢屋に魔法対策してないと思ってた? 甘ちゃんだねえ。魔王みたいな悪の王弟を捕まえるのに、対策してないはずないじゃん?」


 まるで牢の中で放送しているようだ。


(外からの声だとすると――エリンか?)


 この牢がエリンの持ち物なら、今の声も間違いなく彼女だろう。最初に感じた、おとなしそうな雰囲気は微塵もない。


「ていうかさ、王弟って噂より間抜けじゃね? もっとこう悪の帝王っぽいっていうか、睨んだだけで人がバタバタ倒れるとか、そういうの想像してたんだけど、なんか違う感じ? 前に幻獣を雷で丸焦げにしてたけど、見間違いだったのかなあ。本当はあの剣士がやってたとか? てことは、トンチキ王弟に強い従者ってやつだったのかな。うっわ、引くわー、やばすぎだわー」


 言いたい放題である。


(幻獣倒したの、どこで見てたんだよ。隠れる場所とかなかっただろ。ったく、間抜けだのバカだの、好き勝手言いやがって!)


 ギイも負けずに大声で言い返す。


「誰がトンチキだ! そっちこそ、しおらしい態度で手紙なんか寄こしておいて、何もかも嘘だったんじゃないか。この覗き魔!」


 鉄格子を揺すってみても反応はない。こちらの声も音も、外には届かないようだ。


(だったら、もう一度魔法を使って注意を引くか? バカ呼ばわりしてきたのも、俺に強い魔法を使わせないための牽制かもしれないし)

 ギイが詠唱しかけたとき、再びエリンの声が響いた。


「よーし、ここらでパーッとスピードアップするか」


 葉擦れの音が、ゴウゴウという風切り音に変わる。

「うわ、すげ……」

 ギイは思わず呟いた。どうやら森の中を高速で移動しているらしい。


 周囲に人もいないのだろう。エリンは機嫌よく歌を歌い始めた。



 王弟が~間抜けでよかったわ~

 ザコでよかったわ~

 あとは言うこときかすだけ~

 それで村は救われる~

 あ~あ~、ザコでよかったわ~



(ひでえ歌詞なのに、歌が意外と上手くて、よけいむかつく)


 ギイは抗議のつもりで床を殴った。もちろんエリンに届くはずもない。


(くっそー。牽制じゃなくて、ガチで失礼なヤツのような気がしてきた。初対面なのに、なんでザコザコ言われなきゃならないんだ!)


 怒りながらも、歌詞の一節が引っかかる。


()()()()()()()()()ってことは、村の危機だけは本当なのかな。俺をどうにかすることで、助かることがあるとか……)


 ギイは座り直して腕を組む。


(俺のこと、魔王とか悪の帝王とか言ってたよな。エリンたちは、王弟が村に害を及ぼしてるって認識なのか? でも俺、村どころか王都の外に出るのも、今回の旅が初めてだし……。本物のギルロードだって引きこもりだから、絶対無関係だろ。どういうことだ?)


 闇の中、ギイは天を仰いだ。


 依然として謎は多いものの、二つのことが分かった。


 一つ、エリンとその村は、ギイを悪者だと信じている。

 二つ、いままさに、その村へ運ばれている最中である。


(あー、絶対まずいやつだな。村に着いたら、牢から引きずり出されてリンチとか、絶対あるやつだ。せめて言い訳させてくれないかなあ)


 ギイは、ため息をつき、床に寝転んで目を閉じた。


(ここでわめいても叫んでも、どうしようもない……か。何かやるとしても、牢から出されたあとだな。まずは相手の出方を見て――いや、何か言われる前に、こっちから被害者アピールをしておくべきか……)


 考えているうちに、ギイの意識が遠のいてきた。


 ――瞼越しに明かりが見える。夢を見ているのだろうか。


(夢でも幻覚でも、暗いより明るいほうがいいよな)

 ギイは抵抗することなく、眠り落ちた。



 ――光の中から、声がした。


 こんなところに人がいるはずがないのに、いったい誰だろう。


 薄い影が見える。

 煙を集めて人型にしたような、曖昧な輪郭――。

 話しかけようとした瞬間、影がこちらを向いた。


『まだ寝てていいよ』


 どこか面白がるような声だった。


『時間が来たら起こすから。それまでは――』


 再び意識が遠のく。

 声の主が笑った気がした。


『そのときが来るまで、このことは()()()()()()……ね』


 一度も会ったことのない相手。

 なのに何故――懐かしい気がするのだろう。



「よーいしょっと」


 背負い投げをされたような衝撃が走った。

 ギイは一気に目を覚ます。眠っている間に、目的地に着いたらしい。


「いってぇ……」


 腰をさすっていると、明るい声が追い打ちをかける。


「紹介しま~す。こちら、リーファニア王国の王弟、ギルロード・フィルス・リーファニア殿下で~す! めんどくさかったから、連れてきちゃいました。てへ」


「なんと……」

 ざわめきが部屋中に広がる。


 痛みをこらえながら、ギイは周囲を見渡した。

 床板には染みが目立ち、土壁にはあちこちひびが入っている。集会場というより、使われなくなった納屋を、急ごしらえで片づけたような部屋だった。


 ギイの前には十数人の男たちが座っていた。

 屈強な身体に、着古した麻の服をまとっている。

 剣士として訓練したわけではなさそうだ。農作業や木こりの仕事の中で鍛えたのだろう。村でも腕の立つ者を選りすぐったに違いない。


 奥の中央には、白髭の老人が座っていた。

 離れていても分かるほど眉は吊り上がっており、固く握られた拳も震えている。


(あの人、たぶん長老だよな。やべ……絶対に怒ってる。やっぱ俺に対してか? ヤバい王弟だと思ってそうだよな)


 長老は立ち上がり、土壁が剥がれ落ちそうな勢いで怒鳴った。


「馬鹿者っ! 何が『てへ』じゃ。誰が殿下本人を連れてこいと言った!」


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