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悪役王弟だが王都を追放されたので王位を簒奪することにした  作者: CJギガ
第四章  悪役王弟、女アサシンの標的になる
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7-2


 ――長いような短いような時間が過ぎた。



 ギイは、いつの間にか闇の中に横たわっていた。


 周囲は物音一つしない。手段は分からないが、町の中から唐突に知らないところへ移されたようである。


(……エリンにやられたんだよな、絶対)


 ギイは妖しく光る赤い瞳を思い出す。


 見つめられた瞬間、心の奥をまさぐられたような気がした。

 髪も地味な黒を押しのけて、一部が赤く染まっている。最初の姿が偽りだったのだろう。


(俺のこと、間抜けとか言ってたもんな。途中で尾行がバレたんじゃなくて、最初から織り込み済み――全部罠だったんだろうな)


 確かに自分は大間抜けだ。

 しかし落ち込んでいる暇はない。罠に掛けられたのなら、一刻も早く脱出しなければならなかった。


「で、ここはどこなんだ」


 ギイは、ゆっくりと身体を起こした。

 床に手をつくと、チクチクした感触がある。どうやら藁のござが敷かれているらしい。

 慎重に四つん這いで進むと、今度は頭に固いものが当たる。


「痛っ」


 手探りで確かめたところ、どうやら鉄格子のようだ。

 暗闇に鉄格子。出口も存在しているのか分からない。


「どうやってこんなところに移動させられたんだ。これも魔法なのか? なんでもありじゃないか」


 ギイは、ため息をついた。

 そのときアリシアの、悲鳴のような心話が響く。


『ギイ、どこです!? 無事ですか? 何が起きているんです? 返事してください!』


『俺は大丈夫だ。でもここは真っ暗で、周囲が全然見えない。アリシアこそ無事か?』


『私は、あの場所から一歩も動いていませんよう。ただギイが急にドロンと消えたんです。まるでアイテムコンテナに入れられたみたいでした。……でも、もしそうならギイと心話で話なんかできるはずないですからねえ』


『そういや、アイテムコンテナの中と外じゃ、時間の進みが違うんだったな。とにかくここは倉庫じゃなくて、真っ暗な牢屋だ。最悪だよ』


 アリシアは絶句する。ギイは一番気になることを訊いた。


『あいつ――エリンはいま、どうしてる?』


『えっと……さっきちょっと顔を上げたけど、いまは普通に手紙を書いていますよ? あ、書き終わって立ちました』


『あいつが犯人だ。手紙も全部罠。俺たちは、ハメられたんだよ』


『何ですって――っ!?』


 アリシアは、これまでにない大声をあげた。


『いますぐ捕まえて、とっちめてやります! ポポーポポポ!!』


『タヌキでは無理だよ。すぐに捕まって、一緒に牢屋に放り込まれるのがオチだ。攻撃魔法、使えないんだろ?』


『でもでも、このまま見逃したら、ギイは連れて行かれますよう。エリンの足首を、ガブッとひと噛みしてはダメですか?』


『近づく前にやられるよ。俺だってどうやって牢屋にブチ込まれたのか分からないんだ。エリンは絶対に変な能力を持ってるぞ』


 ギイは、できるだけ冷静な調子で言う。


『アリシアには別の頼みがある。三日後に帰ってくるイズーに、どうにかして俺の状況を伝えてくれ。タヌキには難しいと思うが……』


『いいえ、なんとかしてみせます! それよりギイが三日間も囚われたままっていうのが、あまりにも危険すぎます。牢屋に入っているそうですが、このあと引きずり出されて大変なことになるはずです。ギイにもしものことがあったら……』


『俺のことは心配しないでくれ。しばらく自力でなんとかする。ところで心話で会話できる距離の限界って、どれくらいなんだ?』


『ギイが思っているより遠くまで届くと思います。私が幻獣に連れ去られたときも、けっこう距離があったでしょう? うんと離れてしまったら難しいですが、エリンの匂いを嗅ぎながら近づけば、いつか心話が届くと思います』


『期待してる。……アリシア、イズーへの伝言、よろしくな』


 アリシアの返事は聞こえなかった。


 エリンの脚が予想以上に速く、アリシアから一気に離れたのか。

 それともこの闇の空間が、遠くからの心話を妨げる何らかの作用があるのか……。


 ギイは静かに息を吐いたあと、床に腰を下ろした。両ひざを抱え、じっと闇を見つめる。

 最低でも三日間は一人きりだ。エリンだけでなく、他にも敵が現れる可能性は高い。


 ――それでも。


 ギイは拳を、強く握りしめる。


 もし殺すつもりなら、わざわざ捕えたりしない。生かしているということは、何か目的があるはずだ。

 突破口が開かれるとしたら、相手の目的が明らかになったときだろう。


(見てろよ。絶対に生き延びてやるからな)


 ギイは暗闇の中で、静かに決意を固めた。



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