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悪役王弟だが王都を追放されたので王位を簒奪することにした  作者: CJギガ
第四章  悪役王弟、女アサシンの標的になる
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6 ギイ、計画を実行に移す

 朝食後、身なりを整えたイズーはドアの前に立ち、ギイに一礼した。


「それでは行ってまいります。ギイ様、くれぐれも御身を大切に。宿から外には出られぬよう、くれぐれもお願いします」

「ああ。俺の心配はいらないよ。気をつけてな」


 イズーは安心したように頷き、宿を後にした。


 ギイとアリシアは顔を見合わせる。


『行きましたね、クルポ』

『行ったな』


 視線を交わしたあと、二人は大急ぎで作業に取りかかった。


 ギイは床に初心者用の魔法書を開き、アリシアが読めるように置いた。そしてすぐに机に向かう。

 アリシアはページをめくりながら、ギイでも使えそうな尾行向きの魔法を探した。


 手紙を書く時間は、決して長くない。


 幸いなことに、宿には便せんと封筒が備え付けられていた。

 内容はあらかじめ頭の中で組み立てていたため、迷わず書き進められた。しかも日本語で書いてもリーファニアの言葉に変換されるらしい。この世界の翻訳機能とアリシアに感謝である。


「できた」


 封筒に「エリンさんへ」と書いたあと、念のために「エリンさん以外のかたが手にされた場合は、ご本人にお渡しください」と付け加えた。

 ギイは便せんを入れ、丁寧に封をする。


『こっちの準備はできた。アリシア、使えそうな魔法はあったか?』

『ありましたよ。クルッポー』


 アリシアは該当部分を前脚で指す。


『気配が少しだけ薄くなる魔法です。魔力を持っている人が詠唱を正確に唱えれば、難しい修行を積まなくても使えますよ。ちょっとコツは要りますが、ギイなら大丈夫でしょう』

『よし、やってみるか』


 ギイは魔法書を左手に持つ。


『詠唱、意外と短いな。これなら覚えられそうだ』

『でも、ただ言えばいいってものじゃないですよ。体内の魔力を意識して、それをぐるんぐるん回しながら増やして、身体を包み込むようにするんです』

『なんだそれ。……まあ、やってみるか』


 ギイは目を閉じて、自分の鼓動に意識を集中させた。


 すると身体の中に、温かい塊のようなものが生まれる。


(これが魔力……?)


 それは徐々に大きくなり、身体中から湧き出すような感覚に変わってゆく。


 アリシアの心話が聞こえる。


『攻撃魔法だと力を手に集めるのですが、今回は気配を消すので、全身ぐるんぐるんですよ』

『分かった』


 おかしな表現だが、魔法使いの身体だと感覚で分かる。


『その調子ですよ。……はい、いまです!』


 ギイは目を開き、正確に唱える。



《霞となれ、我が姿よ。影が映らぬように。気配よ、沈め(フェード)



 一瞬、身体が熱を帯びるが、すぐに引いた。


 ギイは自分の身体を見下ろす。

 透明になっているわけでもなければ、ぼやけて見えることもない。見た目はいつもどおりだ。


「どこか……変わったかな?」


 アリシアはギイの周囲を、トコトコと回る。


『思ったより存在が薄くなっていますね。やっぱりギイは魔力量が多いのでしょう。もっと上級者向けの本でも、使いこなせるかもしれません』


『でもアリシアには、俺の姿が普通に見えているんだろ?』


『もちろんです。私、聖女ですから。魔力の流れを読めば、すぐに分かりますよう。でも普通の人には、ギイの存在を感じ取りにくいでしょうね。イズーみたいな戦士の勘でもなければ、まず気づかれませんよ』


『そんな人間、ポンポンいないから大丈夫だよな……たぶん』


 まだ不安が消えないので、ギイは自分の身体をもう一度見回す。


『大丈夫。町に出れば効果をすぐ実感できますよ。――あ、解除の詠唱も覚えておいてくださいね。でないと、ずっと薄いままですよう』

『それは困るな』


 ギイは慌てて解除の詠唱も頭に叩き込んだ。


『じゃあ、行こうか。いまから出れば、三十分前には着く』

『はい、出発しましょう。ポポー』


 アリシアは背負い袋に入り、ギイは袋を掴んで外に出た。




 町は今日も祭りの熱気に包まれていた。

 川辺に並ぶ屋台からは香ばしい匂いが漂い、客引きは片っ端から通行人を呼び止めている。


 しかしギイに目を向ける者は誰もいなかった。姿はそのままなのに、他人に意識されていない。空気と同じ扱いだ。


(これが、ぼっちってやつか……。切ないよなあ。解除の詠唱を覚えといてよかった。ていうか、いますぐ唱えたい)


『気を抜かないでくださいよ。声を出したり誰かにぶつかったりすると、すぐにバレますからね。クルッポー』


 袋の中からアリシアの心話が飛んでくる。ギイの考えも周囲の状況も、見透かしているようだ。


『分かってる。店に手紙を置いたら、すぐ隠れるよ』



 ギイは昨日の書店にたどり着いた。


 敷地の片隅には、日本でも見かけるスタンド型の郵便受けがある。

 ギイは手紙を、そっと中に入れたあと、近くの建物の影に身を潜めた。


 ポケットから懐中時計を取り出す。


 ――午前十一時半。

 約束の時間の三十分前だ。


 アリシアは袋から、ひょっこりと顔を出す。


『エリンさん、来ますかねえ? それとも、もう店内にいるのでしょうか』

『中にいたとしても、約束の時間に俺が来なかったら、一度は様子を見に出てくるんじゃないかな』

『それもそうですね。……私、お昼ごはんを食べたくなったので、エリンさんには早く来てほしいです。ポッポー』


 書店のドアが開き、一人の少女が姿を現した。


 黒髪を肩で切りそろえ、地味なグレーのワンピースを着ている。

 日本の高校にいたら、休み時間はずっと自分の席で読書しているタイプだ。華やかさに縁のない、目立つことが嫌いなタイプに違いない。


 ギイは心話で呟く。

『あの()がエリンかな?』

『どうでしょう。手紙の印象には近い気がしますが……』


 少女は郵便受けを開き、ギイの手紙を取り出した。

 宛名を見てから封を切り、その場で読み始める。


『やっぱ彼女がエリンっぽいな』

『他人宛の手紙を勝手に読む人でなければ、ですけどねえ』


 読み終えた少女は便せんを封筒に戻した。


 そして手紙を持ったまま、書店を離れて歩き始める。


(店主に手紙を見せに行かないのかな。それとも判断を仰ぐ相手が別にいるのか?)


 アリシアも不思議そうに訊く。


『どこへ行くんでしょうね?』

『さあな。とにかく追おう』


 ギイは人混みに紛れそうになる少女の後を、そっと尾行し始めた。


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