表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役王弟だが王都を追放されたので王位を簒奪することにした  作者: CJギガ
第四章  悪役王弟、女アサシンの標的になる
44/48

5 ギイの計画

 夕方になり、イズーが宿に戻ってきた。


「おかえり! 冒険者ギルド、どうだった? 受付に綺麗な女性がいて『依頼を受けたければ、まずご登録をお願いします』なんて言われなかったか?」


 明るく言うギイに対して、イズーは浮かない顔をしている。


「ギルドで何かあったのか?」

「いえ、その……」


 イズーは申し訳なさそうに目を伏せた。

 ギイは心配になってくる。


「あのさ、俺の魔法書のために、イズーが無理して稼ぐ必要なんてないんだ。剣聖が冒険者ギルドへ行くってシチュエーションに、ついテンションが上がってしまったけど、本当は俺がバイトでも何でもすべきなんだよな。だからもしギルドで嫌な目に遭ったのなら――いや、そうじゃなくても、イズーが副業なんかする必要なんてないから……」


「ギイ様、違うのです」


 イズーはギイの前にひざまずく。


「ギイ様の騎士としてあるまじき、お願いがございます」

「な、何だよ」

「しばしギイ様のお側を離れることを、お許しいただけないでしょうか」

「へ?」


 とまどうギイに、イズーは真剣な表情で続ける。


「ギルドに登録したところ、すぐに護衛の依頼が入りました。もしお許しいただけるのなら、三日ほどお側を離れることになります。もちろん反対でしたら、すぐにでも断りの返事をしてまいります」


 ギイは思わず安堵の吐息を漏らした。


「なんだ、ずっといなくなるのかと思ったら、三日だけか……」


(イズーが三日いないと、どうなるっけ……)


 ギイはアリシアと考えた、計画の内容を思い返す。



 まず明日の正午前に書店へ行き、エリン宛の手紙を置いて行く。


 そのとき周囲を観察し、できればエリン本人の姿も確認する。


 手紙の内容は、会合の時間と場所の変更依頼だ。指定された書店でなく、宿の近くの大通り沿いにする。人の多い場所なら襲撃のリスクも下がるし、仮に襲われても道が広ければ逃げやすいだろう。


 最初の会合では、相手の身元確認をする。アリシアがさりげなく近寄り、エリンが普通の人間か、それとも謎の種族の末裔なのか、可能なら見極める。


 問題がなければ、後日あらためて宿で本格的に話し合いをする。そのときにはイズーにも事情を伝えて、同席してもらう――というものだ。



(ええと、明日は手紙を持って行って、その翌日が初会合だろ。イズーが戻ったあとに次の段階っていうのは、ゆっくりペースだけど、向こうにも都合があるだろうし、案外ちょうどいいのかもしれないな)


 アリシアも心話で機嫌よく言う。


『イズーが留守にしてくれるとは好都合ですね。泊まりがけみたいですし、私たちも宿を抜け出すのが楽になります。クルッポー』

『イズーに見つからないように事を運ぶのが、最難関だったからな』


 心話が聞こえないイズーは、不安そうな表情を浮かべる。


「……やはりこの依頼は、断ったほうがよろしいでしょうか?」

「あ、いや。川舟の予約を変えなくちゃとか、そういうことを考えてただけだ」

「その件は私が手配しておきますので、ご心配なく」


 ほっとしたように立ち上がるイズーを見て、ギイは申し訳ない気持ちになった。


「なあ、イズーはその依頼、受けたいって思ってるのか? 無理してないか? 断ってもいいんだぞ。あの魔法書の値段分だったら、普通の依頼じゃないだろうし……」


「それほど高額の報酬ではありません。せいぜい、魔法書の取り置きを頼める程度かと。それに依頼内容も、近くの集落まで女性一人を送り届ける、ごく一般的な護衛任務です。難しいものではありません」


「それでも疲れる仕事だろ。無理しなくても……」


 ギイは言葉を呑み込む。あやうく「魔法書がタダになる計画がある」と話してしまうところだった。


「ほら、前に幻獣を倒したときに出てきた、青い結晶があっただろ。あれを売ればいいんじゃないかな」

「しかしギイ様は、結晶を持っているとアイテムコンテナが広くなった気がするので、当分手放さないとおっしゃっていませんでしたか?」

「言ってたけど……自分のものを買うために、自分のものを売るのは当然だろ」


 イズーは顎に手を当て、考え込むような顔になる。


「以前、売りに出されていた幻獣の結晶を見たことありますが、どれも小さなものでした。それでも高値で取り引きされていたようです。ギイ様の結晶は非常に大きいので、想像も付かないほどの値が付くでしょう」

「じゃあ……」

「ですが高額すぎて、買い手を探すのが大変かと。この町では難しいと思います」

「やっぱりそうか。かといって小さく砕こうとしても、無理だったもんな」


 ギイは苦い気持ちになった。


『ギイが上級魔法を覚えれば、小さくできるかもしれませんが、いまの力では無理ですよ』

 アリシアが心話で会話に入る。

『それにあの結晶は、大きさ自体にも価値がありそうです。本当に困ったときまで、砕かないほうがいいですよ』

『……アリシアが言うなら、そうなんだろうなあ』


 ギイは、ふと思い出して、イズーを見る。


「そういやさ、冒険者ギルドで買い取ってくれないかな。アイテムの買取って、よくやっているだろ?」


「もちろん普通の買取はしています。しかしあまりにも高額のものは、ここのギルドでは難しいと思いますよ。もっと大きなギルドであれば別ですが」


「大きなギルドって、どのへんにあるのかな?」


「ここから最も近い場所は……王都ですね」


「あー、絶対駄目だ」


 ギイは王都から追放された身である。買取をしてもらうために戻れるわけがない。


(結晶のことは大きな町に行ってから、だな)


 そう思っていると、イズーが話題を変える。


「ギイ様、もう夕食はお済みですか?」

「いや、イズーが戻るまで待ってた」

「では食堂へ参りましょう。今日の日替わりメニューは川魚のムニエルだそうです。宿屋の外まで、いい匂いがしていましたよ」

「それはいいな」


 アリシアは、すかさず心話で言う。


『おいも、ついているでしょうか? なかったら、是非頼んでくださいね』

『ああ。蒸したのでも揚げたのでも頼むといい。明日は勝負の日だからな』

『ポポポー! おいしいものを食べて、作戦を成功させましょう!』


 アリシアは嬉しそうに飛び跳ねた。


 イズーのあとに続いて、ギイは宿屋の階段を下りる。

 夕食の話をしながらも、頭の中は明日の手順と手紙の内容でいっぱいだった。


(イズーが今後バイト漬けにならないためにも、これからの魔法使い人生のためにも、明日は絶対にうまくやらないとな)


 ギイは心の奥で固く決意した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ