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悪役王弟だが王都を追放されたので王位を簒奪することにした  作者: CJギガ
第四章  悪役王弟、女アサシンの標的になる
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3-1 ギイ、魔法書を探す

 木製の重い扉を開くと、古書の匂いが外まで流れ出てきた。

 ギイたちは中へ、そっと足を踏み入れる。


「うわあ……」


 ギイは思わず言葉を漏らした。


 天井まで届く書架が壁を覆い尽くし、そのすべてが本の背表紙で埋まっている。

 高さは五メートルほどだろうか。見上げるだけで首が痛くなりそうだ。


 店内には窓がほとんどなく、ところどころに灯るランプの柔らかな光が、本を静かに照らしている。

 まるで外界から切り離された空間のようだ。


『本が日に焼けて読めなくなるといけませんからねえ。古い魔法書が多いところは、外から入る光を少なくするので、どこも薄暗いんです』


 アリシアが解説していると、一人の老人がいつの間にか近くに立っていた。


「いらっしゃい。どんな魔法書を探しているのかね?」

「あ、はい。初心者向けのやつというか……」

「おまえさんの属性は何かね?」

「属性……ですか」


 ギイは、すぐに返事ができなかった。


(この間、雷を起こしたから、雷属性とか? そんな属性あるのかな。稲光だから光属性になるのかな。でも光属性って単なる光じゃなくて、聖なる輝きみたいなやつで、パーッとやりそうなイメージだよな。アリシアの魔法に近そうというか)


 困ったので正直に言うことにした。


「なんか、まだそのへんも分からないというか……。マジでガチの初心者です」

「ほう」

「とりあえず、好きにいろいろ見させてください」

「用があったら呼んでおくれ」


 老人はギイを残して奥に引っ込んだ。


『私が選んであげますから、心配しなくていいですよう。クルッポー』


 背負い袋から顔を出したアリシアが、肩をポンポンと叩いた。


『あてにしてる。俺ではもう何が何やら、さっぱりだ』


 どこから見て回ろうかと考えていると、イズーがギイの横に立ち、小声で囁く。


「ギイ様。少し気になることがありますので、私は一人で店内を見て回ってもよろしいでしょうか」

「ああ、もちろんだ」

「ギイ様も不審なものを見つけられたら、すぐに私を呼んでください」


 ギイは頷いた。

 こちらとしても、ありがたい申し出である。アリシアに魔法書を選んでもらう以上、イズーが周囲にいないほうが都合がいい。



 ギイはアリシアを背負ったまま、イズーと反対方向に歩き始めた。

 物音一つしない静寂の中、ギイは本の背表紙を眺めながら、ゆっくりと進む。

 アリシアは嬉しげに話し始めた。


『いいですね、魔法書。紙の匂いを嗅いでいると、うっとりしてきます。そういえば普通の魔法書売り場に来るのって、久しぶりですねえ。神殿の図書館とは全然雰囲気が違いますよ。クルッポー』


『おれはここもファンタジー図書館っぽいと思うんだけど、神殿の図書館は、もっと凄いのか?』


『本の数が違いますよ。このお店の本は、神殿より新しいものが多いです。神殿の図書館は年季が入っているんです。……あ、そういえば、ギイは本に書かれている文字、読めますか?』


 ギイは一番近くにある本を、書架から引き出す。


『えーと《イボの取れる、おまじない》。――なんだこれ』

『ちゃんと読めるようですね。目で見えるものにも翻訳機能が働いていて、本当によかったです』

『マジで、イボ取りのおまじないの本か。こんなの魔法書に混ぜていいのか?』

『魔法を使ってイボを取る方法が書かれているのなら、立派な魔法書ですよう』


 ギイはイボ取りの本を戻し、今度は別の書架に目を移した。

 さきほどよりも古そうな、革装丁の本が並んでいる。その中で一番、分厚いものを書架から引き出した。


『こっちの本は、カッコよさそうだな。ええと……』


 作られてから長い時間が経っているようで、表紙の文字が掠れている。しかし、どうにか読めなくもない。


『《初級魔術大鑑》かあ。難しそうだけど、一応初心者用だよな?』


『そうですね、ポッポ。作者名はドレイス・ジェルベロウド……まあ! あのドレちゃんが書いた本だったのですね! 読みたいです。ギイ、ページをめくって中を見せてくださいな』


 言われるがまま、ゆっくりと一ページずつめくる。

 魔法概論の部分が長いので適当に飛ばしたくなった。だがアリシアが心から嬉しそうなので我慢する。


 アリシアは感慨深げに言う。


『勉強家のドレちゃんらしい、真面目な内容ですねえ。いつの間にか、こんな立派な本を出せるようになって……。嬉しいですよう、クルッポー』


 ギイは本を閉じて、改めて表紙を見た。

 使い込まれた革ならではの、飴色をしている。どう見ても十年以上前に出版された本だろう。


『なあ、アリシア』

『なんでしょう』

『作者と顔見知りみたいだけど……アリシアって、年いくつなんだ?』


 背中から、タヌキの息を呑む音がした。


『ポププププ、女子に年齢とか、訊いてはいけないんですよう!』


 アリシアは面白いほど狼狽する。


『よ、よく見たら、ドレちゃんのお父さんの本かもしれません。うん、きっとそうです。この本、けっこう古そうですもんねえ。クルルッポポー』


『お父さんだったら、名前じゃなくて名字のほうが一緒だろ』


『で、でも、親子で同じ名前っていうのも、よくありますよう』


(――怪しい)


 ギイは後ろを向いて、アリシアの顔を見ようとした。

 アリシアは素早く背負い袋の中に引っ込む。


(下手くそなごまかし方だな。聖女の姿をしていたときは二十歳(はたち)前に見えたけど、本当は、もっと年齢がいっているのか? そういやイズーも前に、凄腕の聖女っぽいことを言っていたし、新米じゃなくてベテラン聖女なのかも)


 気にはなったが、アリシアを追求するより本選びのほうが重要である。ギイは、とりあえずこの本を、心の中の「買う本リスト」に入れた。



 そして、さらに奥へと進む。


 明かりの数はさらに減り、闇の中で背表紙だけが浮かび上がっている状態になってきた。

 アリシアは、年齢のことを話題に出されたくないのか、ずっと黙っている。


 少し心細くなったので、ギイは声に出して本のタイトルを読んでいった。




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