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悪役王弟だが王都を追放されたので王位を簒奪することにした  作者: CJギガ
第四章  悪役王弟、女アサシンの標的になる
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2-2

 アリシアが顔を出した気配に気づいたのか、イズーが肩越しに振りかえる。


「ギイ様。アリシアにも何か買ってあげてはいかがでしょう?」


「イモを買う約束はしたところだよ」


「食べ物はもちろんですが――アリシアに、ご自身のペットである証をおつけになるのはどうでしょう」


「証って、首輪みたいなやつか? いるかなあ、そんなの」


「あったほうがよろしいかと存じます」


 イズーは真面目な顔で続ける。


「いかにアリシアがギイ様に懐いているとはいえ、何かのはずみで他のタヌキと混ざってしまうこともあります。タヌキは集団で行動する性質がありますから、旅の途中でタヌキの群れと出会うと大変です。アリシアがタヌキ仲間とくっついて眠ると、どれがアリシアなのか分からなくなるかもしれません」

「そうかなあ?」


 心話で話せるかぎり、アリシアと他のタヌキを間違えるはずがない。

 だがタヌキの正体が聖女だと知らないイズーに、理由を話せなかった。


「イズーは自分の馬に、何か買ったりしてるのか?」

「はい。(くら)(あぶみ)は特注です。(コークスブレイン)も喜んでくれていますよ」


 イズーは自信満々に言ったあと、露店の前で足を止めた。


「タヌキでしたら、こちらを首に巻くと個性が出てよろしいかと思います」


 店先には、おしゃれなチョーカーが並んでいた。


 普通の動物に巻くと、華奢な飾りをボロボロにしてしまいそうだが、アリシアは中身が聖女なので、壊すことはないだろう。

 美しい品ばかりだが、用途が首輪なのでためらってしまう。


『アリシア、こういうの欲しいか?』

『え、いただけるのでしたら欲しいですよ。とっても綺麗ですから。ポッポ』


 アリシアは背負い袋から身を乗り出した。


『私、神殿に寄進されたものをいただくことはありましたが、私個人に贈り物をされりことって、めったにないんです』

『首輪でもいいのか?』

『首輪でなく、チョーカーですよ。とても素敵じゃないですか』


 似たようなものだろ、と思ったが、心話で言わないようにする。せっかく喜んでくれそうなのだから、水を差すこともない。


『じゃあ、どれがいい?』

『ギイのセンスで選んでくださいな。そのほうが贈り物っぽいでしょう?』


 責任重大である。


 悩んだ末に、ギイは金色のチョーカーを選んだ。

 首輪のように巻くタイプだが、飾りのリボンがついている。金色にしたのは、アリシアの髪を思い出したからだ。


「ギイ様、よいものを選ばれましたね。とても綺麗ですよ」


 イズーは金を払いながら言った。


 ギイはアリシアを背負い袋から出して、さっそくチョーカーをつけてやる。

 アリシアは飛び跳ねて喜んだ。


『ありがとうございます! 大事に大事にしますねえ』

『ああ、うん……』


 気の利いたことを言えなかったが、ギイも内心嬉しかった。

 タヌキとはいえ女性にプレゼントをしたのは初めてで、しかも喜んでもらえたのだ。嬉しさと照れくささが入り交じって、どう反応していいか分からなくなる。


 アリシアを背負い袋に入れて、また歩きだそうとしたとき、ふと会話が聞こえてきた。



「そういえば、おまえは聞いたか? 三日前に幻獣らしい生き物が王都へ向かったって話」


「ああ。そして急に姿を消したって話だろ。俺は信じてないけどよ」


「俺は信じてるぜ。というのはな、俺、見たんだよ。東の空に光の柱みたいなのが出現して、パーッと空が光ったのを」


 ギイは思わず振り返りそうになった。

 だが話している人間と、うっかり目が合うと困るので我慢する。


「でっかい雷じゃないのか?」


「確かにドーンって音もしたけど……でもそのあと、バーッと魔素が増えたというか……。とにかく変な感じがしたんだよ」


「雷に幻獣がやられたってことか。そんな偶然、あるかなあ?」


「幻獣そのものを見たってやつも、何人かいるぞ。凄く高いところに、でっかい鳥みたいなのが飛んでたらしい」


「祭りで酒を飲み過ぎたんじゃねえのか? 昨日会ったやつも、似たようなことを言ってたぞ。海辺で酒飲んで空見たら、なんか飛んでるの見たらしいけど、まばたきした間に消えたって」


 男の片方が笑って、もう片方は不満げである。勘違い扱いされたのが気に入らないらしい。

 片方が信じていないということは、幻獣はおそらくこの町の真上を飛んでいない。町がパニックになったわけではなさそうだ。


 ギイが安堵して歩き出そうとしたとき、今度は笑っていた男のほうが、意味ありげに言う。



「噂といえば、俺は王都のほうが気になっている。なんでも()()殿()()()()()()()()そうじゃないか」


 ギイの心拍数が上がった。足を止め、男立ちの会話に神経を集中させる。


「あ、なんかそういう話があったな。でも本当なのかよ。王族の追放なんて、もっと大々的にお触れがあるんじゃないのか?」

「それが罪人として追放されるわけじゃないから、ひっそり追い出されるらしいぜ」


 別の男の声が加わる。


「王弟殿下だけどよ。俺の知り合いの友達が、南の街道で見たらしい。五人ぐらいお供がついていて、そのうちの一人が剣聖イズレイル様だって聞いたぜ」

「イズレイル様なら北へ行くんじゃないのか? ギデイン辺境伯領といったら、北方だろ」

「あー、確かにな。じゃあ、南の街道は見間違いかもな」


 ギイは唾を飲み込む。


(追放の噂は届いているけど、ここにいるのは、バレてなさそうだな。でもそのうち、あらゆるところで俺を見たって噂が流れそうだ)


 また別の男が噂話に参加する。


「しかし王弟殿下が追い出されるってことは、()()()の連中がやっていることはマジなのかねえ」


(王弟派……?)


 自分と関係のある言葉に、ギイは不穏なものを感じる。


「あいつら、反国王を掲げて好き放題やっているじゃないか。ついこの間も……」


「ギイ様」


 先を歩いていたイズーが、いつの間にかギイの真横に立っている。


「次は魔法書を見に参りましょう。すぐそこに書店がありました」


 イズーに腕を引っ張られ、無理矢理その場から移動させられた。

 ギイは小声で言う。


「でもあいつら、俺たちの話をしていたぞ。情報収集ってわけじゃないけど、聞いておいたほうがよくないか?」

「ただの噂話です。実際彼らは、我々がここにいることを想像もしていない。あのまま聞いたところで、憶測に振り回されることになりかねません」


 イズーは声を潜めて言った。

 アリシアもイズーに同意する。


『あの流れでギイの悪口になったら、たぶん落ち込みますよ。そんなことより魔法書を見ましょう! 私が選んであげます。とても楽しいですよ。クルッポー』


 確かに自分の性格だと、ずっと気にしすぎて悩むだろう。


(町で聞く王様や貴族の噂話なんて、SNSで見るような悪口しかなさそうだもんなあ。俺は当事者だし、聞かないほうがいいよな……)


「よし、気分を変えて魔法書を見に行こう」


 ギイの言葉に、イズーは頷いた。



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