2-1 ギイ、買い物をする
イズーの強い要望で、まず武器屋へ行くことになった。
ギイとしても大賛成である。
一番大きな通りにある店をくぐると、巨大な剣が飾られているのが目に飛び込んでくる。
(これこれ! バカみたいにでかい剣を見てると、異世界に来たなって感じがする。テンション上がるなあ!)
壁には様々な手持ちの剣や、槍も掛けてある。
新品のように、まばゆく輝くものもあれば、使い古した戦士の武器を思わせる鈍い光を放つものもある。
ファンタジーの武器好きにとって、夢の空間だろう。
『なあ、アリシア。イズーが持っている魔剣なんちゃらと同じような剣、この中にあったりしないか?』
『魔剣ノクティクレイモアですか? こんなところには、普通ないですよう。クルッポポー』
アリシアは背負い袋の中から、呆れたように心話で返した。
『魔剣なんてものは、ダンジョンの奥で眠っていたり、謎のおじいさんから譲られたりするものですよう。ノクティクレイモアも、迷宮みたいなところで、誰かから譲り受けたという噂を聞いたことがあります』
『そうか……って、ダンジョン!?』
ギイは思わず声に出しそうになった。
『リーファニア王国には、ダンジョンがあるのか!?』
『ありますよ。大きいのから小さいのまで。そちらにも似たようなものがあったでしょう? コフンとかピラミッドとかクノッソスとか』
『クノッソス以外はダンジョンかどうか微妙だけど……。とにかく異世界ダンジョンっていうのは、また違ったロマンがあるよ。行ってみたいなあ!』
目を輝かせるギイに、アリシアは不思議そうに言う。
『ギイは虫が嫌いなのに、ダンジョンは平気なんですか? ヘビとかコウモリとかいますよ。もちろん、でっかい虫も』
『うっ……』
一瞬ためらったが、ギイは力を込めて言う。
『せっかく異世界にいるんだから、ダンジョンを攻略したいな。虫除けの香を使えばがんばれると思う』
『じゃあ、近くを通ったら、イズーに言うといいですよ。危ないところが多いから、イズーが賛成するかどうか分かりませんが……』
「ギイ様、どうぞこちらへ」
アリシアと話していることを知らないイズーが、ギイを呼ぶ。
「この中からお好きなものをお選びください」
ギイはイズーが指さす先を見た。
直径十センチほどのトゲ付き鉄球が、金属棒にくっついて、いくつも並んでいる。
(モーニングスター……? いや、違うな)
鉄球つき棍棒にしては、棒の長さが短い。それに鉄球は棒の両端についていた。
ギイは信じられない思いで訊く。
「これもしかして……ダンベル?」
「はい」
イズーは、にっこり笑った。
「どれでも気に入ったものがあれば、おっしゃってください」
「気に入ったと言われても……。なんでトゲトゲのやつばっかなんだ?」
「武器にもなりますし、装飾としてもいいと思います。恐れながら申し上げますが、これが一般的なダンベルです」
不思議そうなイズーに、ギイは強く主張する。
「トゲ、邪魔じゃね? ダンベルって、もっと丸くてツルッとしているのが普通じゃないのか?」
「ギイ様……どこからそんな不思議な知識を得られたのですか?」
「どこって……」
自分の常識では、ダンベルはトゲなしだと言いたかったが我慢した。
ここは異世界なので、トゲありのほうが常識なのだろう。
ギイは、ずっしりと重いダンベルを持ち上げた。
「背負い袋に入れたら、袋に穴が空きそうだな」
「ご心配なく。普段は私のアイテムコンテナの中に入れておきます」
ギイが眉を寄せながら、いくつかのダンベルを持ち上げたり下ろしたりしていると、後ろから背中を軽く叩かれる。
「兄ちゃん」
振りかえると身長二メートルほどの、筋骨たくましい男が立っていた。
おそらく店主だろう。
「あ、はい。何でしょうか……」
気後れしつつもギイが訊ねると、男は白い歯を見せて笑った。
「迷ったらトゲの多いやつを選ぶ。それが漢ってやつだ」
「は、はい」
迫力に押されて、ギイは両端にウニがついているようなダンベルを選んだ。
「こいつはいいものだ。初めてにしては、なかなかの目利きだな」
店主は満足そうに言い、イズーから金を受け取った。
(トゲトゲダンベル、使いこなせるかな)
イズーがダンベルをしまおうとするのを断り、ギイは自分のアイテムコンテナに入れた。一応自分のものなので、自分が管理するほうがいい。
(コンテナに入れたら愛着も湧いてきたな。トゲトゲもちょっとカッコイイ気がしてきた。上げ下ろししていたら、どこかに引っかけそうだけど。取り扱いに気をつけなくちゃな)
また来てくれ、という店主の声を背後で聞きながら、ギイたちは店を出た。
露店が並ぶ川辺を歩いていると、あちこちからいい匂いがしてきた。
町に入る前に早めの昼食を取ったので、ちょうど小腹が空いてくる。
「ギイ様、よろしければこちらをどうぞ」
いつの間にか肉の串焼きを買っていたイズーが、一本差し出してきた。
「ありがとう」
ギイは素直に受け取り、さっそく口に運ぶ。
「……うっま!」
脂身の少ない肉だが固くない。鶏肉に似ているが、違った肉の味も混じっている気もする。汗をかいて身体から塩分が抜けているせいか、よく効いた塩味が異様に美味しい。
ギイが即座に完食すると、イズーがもう一本差し出してきた。
「こちらもどうぞ」
今度は、ゆっくり味わいながら食べる。
(何の肉か知らないけど、うまいよなあ。たぶん原材料を考えちゃいけないってやつだろうけど……うまけりゃなんでもいいか)
ギイの食いっぷりを見て、イズーが微笑む。
「少し早いですが、ギイ様もおなかが空いてらっしゃるようですし、いまから夕食になさいますか?」
ギイは太陽の位置を見る。
いまは真昼を少し過ぎたぐらいだ。さすがに夕食には早い。
「夜まで時間がありそうだから、食べ歩きぐらいがいいよ」
「では、あちらへ行ってみましょう。確か……もあったはずです。とてもおいしいので、ギイ様も是非召し上がってください」
「そうだな」
単語が聞き取れなかったので、おそらく地球には存在しない食べ物だろう。
ウニ型ダンベルのように、ギイの常識的にはありえない料理かもしれないが、食欲には勝てなかった。
毎日の食事も謎の肉もおいしいのだから、イズーが勧めてくるものに外れはないだろう。
「途中でいいもの見つけたら、何でも食べよう」
「承知しました」
露店は食べ物だけでなく、様々なものが売られていた。
森が近いせいか、薪や炭、木工品も目立つ。山菜と川魚の干物も、この町の名産品だろう。
斧や包丁といった刃物や新鮮な野菜は、川舟を使って運び込まれたのかもしれない。
あちこちの露店を覗きながら、のんびりと歩いていると、アリシアが心話で話しかけてくる。
『いい匂いがしますねえ。さっきの串焼きですが、私の分は、ないのですか?』
『タヌキが串焼きなんか食ったら、串が喉に刺さるぞ』
『そこはギイが、上手に食べさせてくだされば……』
『歩きながら串焼きは無理だ。その代わり、フライドポテトがあったら絶対に買うよ。それだったら背負い袋の中でも食べられるだろ?』
アリシアが袋から素早く顔を出す。
『忘れず買ってくださいね。一人一包みですよ。一つだけ買ってギイが八割、私が二割とかじゃ駄目ですよ。クルッポー』
『分かった分かった』




