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悪役王弟だが王都を追放されたので王位を簒奪することにした  作者: CJギガ
第四章  悪役王弟、女アサシンの標的になる
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1 ここはリゾート温泉地!

 ギイは、初めて町らしい町にたどり着いた。



 ――河岸の町トゥカーテ。



 ここから舟に乗って川を下り、海へ出たあと岸伝いに島へ行くことになる。


「山の中の温泉地みたいだなあ」


 ギイは宿の二階から外を見た。


 山間の町の中央に川が流れ、両脇に宿が並んでいる。

 これで家や店が少なければ、川沿いの田舎町という言葉がぴったりかもしれない。


 しかし川舟を使う交通の要所なので、普通の田舎にはない大きな商店が建ち並んでいた。

 いまは祭りの最中なので、道路沿いに露店も並んでいる。

 山に囲まれた町にしては、人通りも多い。ギイは以前テレビで見た、地方都市の日曜市を思い出した。


 祭りの期間中というせいもあり、下りの川舟も満席である。予約が取れたのは、今日から四日後の便だ。


「地面じゃなくてベッドで寝られるなんて、最高だな」


 ギイは窓辺で伸びをする。

 待っている間は快適な宿に泊まり、のんびりと露店を見て回る予定だ。

 王都を出て初めて「旅をしてよかった」と心から思う。


『ちょうど春だから、おいしい山菜料理が食べられますよ。しばらくのんびりしましょうねえ、クルッポー』


 アリシアも出窓に飛び乗り、一緒に伸びをした。


『そうそう、この町には温泉があるんですよ』

『見るからに日本の温泉地っぽい雰囲気だけど、本当に温泉があるのか』

『リーファニア王国には、けっこう温泉が多いんですよ』


 アリシアは嬉しげに続ける。


『これまでは濡れタオルで身体を拭いたり、川に飛び込んで身体を洗ったりしていましたが、今夜は快適なお風呂に浸かれます。最高ですね! ポッポポポ』


『アリシアも温泉に入るつもりなのか?』


 ギイは湯につかるタヌキの姿を想像する。


『サルが温泉に入るのは聞いたことあるけど……タヌキってお湯につかって大丈夫なのか? タヌキ鍋になったら大変だぞ』


『サルにできて、聖女にできないはずがありませんよ。いざとなったら力を使って、ぬるめのお湯にします。ポポポー!』


『便利だな、聖女って。湯加減も調節できるのか』


 ギイは、ふと疑問に思う。


『アリシアは男湯と女湯、どっちに入るんだ?』

『私は聖女ですよ。男湯に入るわけないでしょう!?』

『俺が連れて入るならともかく、タヌキ一匹が人間の風呂に入るのって難しいだろ。動物は放り出されるんじゃないのか?』

『それは……』


 アリシアが言いよどんでいると、剣士の姿から庶民の旅装に着替えたイズーが言う。


「ギイ様も、お着替えください。そのあと買い物に行きましょう」


 生真面目なイズーにしては珍しく、弾んだ声である。


「ご入り用のものがあれば、この機会にお買い求めになるとよろしいかと存じます。日程に余裕があるので、じっくりと物を選べますよ」


「でも俺、金を持ってないんだけど」


「ギイ様の旅費は、王太后陛下からお預かりしております。私もいくばくか持ってきておりますし、何の心配もございません」


 ギイは、ほっとした。内心、宿代をどうするのか心配していたのである。


「ではギイ様。まずは、このマントを羽織ってください」


 イズーが、こげ茶色の地味なマントを差し出してきた。

 道中着けていたものよりも大きめのサイズで、羽織ってみると服装も体型も隠れる。


「……(みの)(むし)っぽいな」


「ご身分が知られては大変なことになりますので、人目を引かない服装をするのがよろしいかと。お顔を隠すために、フードもかぶってください」


「ますます蓑虫だな。窓の外を見たかぎりでは、こんなファッションの人、どこにもいないぞ。よけいに人目を引くんじゃないのか?」


「そうでしょうか」

「いいから見てみろよ」


 ギイはイズーを窓辺に呼ぶ。


「今日は天気がよくて暖かいから、厚着して顔を隠しているほうが怪しいって。ほら、誰もこんなの着てないだろ」


 イズーは苦い表情をしているが、反論できないでいる。


「俺は引きこもりだったから、顔を知られてない。だから堂々としていたほうがいいと思う。むしろイズーのほうが有名だろ。気をつけるのは、イズーのほうだ」


 イズーは十秒ほど考えた末に言う。


「確かにギイ様のおっしゃるとおりです。このマントは寒くなってから、改めてお渡ししましょう」


 ギイは心の中でガッツポーズをした。


「そうと決まったら、買い物に行こう。絶対に買わなくちゃいけないものは、何があったっけ。食料を足して……」

『おいもおいもおいも!』


 アリシアは、ギラギラした目で、ぴょんぴょん飛び跳ねた。

 心話が聞こえないイズーは、即座に言う。


「テントとバングルとダンベルを買いましょう」

「え、テントって、ここにあるのか?」


 地面に寝転がる野宿を続けたせいで、この世界にテントが存在するとは思わなかった。


「探してみなければ分かりませんが、おそらくあると思います。王都では大人数で旅する者用のテントばかりで、少人数用のものが品切れでした。騎士団の宿舎にあるものも、軍勢用のものがほとんどで……。ギイ様には道中、不快な思いをさせてしまったことを、お詫び申し上げます」


 イズーは神妙な顔で目を伏せた。


『ここってテントのある世界だったのか。そういう概念すらないのかと思ってた』


 ギイが心話で呟くと、アリシアは平然と言う。


『テントぐらい、ありますよ。リーファニア王国は旅人が多いわりに、宿場町は少ないですからねえ。私もタヌキになる前は、ちゃんと自分用の立派なやつを持っていました。五人ぐらいがバンザーイして眠れたんですよ。クルッポー』

『そいつがここにあったらよかったのになあ』


 石が、ゴロゴロしていた地面に寝た日のことを思い出し、ギイは思わず肩をさすった。


「ところで、ギイ様のお入り用の物は何でしょう」


 イズーの問いに、アリシアが即座に言う。


『おいもおいもおいも!!』


 アリシアに代わってギイは答える。


「俺、本屋に行きたいな。初心者用の魔法書を探したい。あとアリシア……タヌキのために、おいも」

「ペットのことも、きちんとお考えとは、さすがギイ様ですね」


 イズーは、にっこり笑った。


「では、さっそく出発しましょう。……戻ってきたら、ダンベルとバングルを使って、筋トレですよ」

「げっ」

「大丈夫ですよ。最初は簡単なことから始めますから」


 イズーは嬉しげに目を細めた。


 特訓に気後れする部下に対しても、同じような表情をしていたと容易に想像がつく。

 不出来な部下を叱りつけるタイプではなく「さあ、がんばれ。あと百回!」などと、さわやかに無茶振りするタイプに違いない。


『おいもが待っています。すぐに出発しましょう。クルッポー』


 アリシアはギイの背負い袋に入った。

 河原から町へ向かう道中では、訓練も兼ねて、ギイがアリシアを背負うことも多かった。今日もそうなるのだろう。最初のうちは重くて大変だったが、いまはもう慣れた。


 ギイは袋を背負う。


「じゃあ、町を見て回ろう」



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