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4-2

 話している間も、イズーは次々と魔素獣イノシシを倒している。

 すでに最初の四匹を倒しているが、まだまだ襲いかかってくる。


『アリシア、あと何匹ぐらいいるんだ?』

『けっこういますよ。どんどん増えてます。そのうち背後からも来ると思います。ポッポー』


 平然と言うアリシアに、ギイは詰め寄る。


『やばいじゃんか、それ! イズーに言わないと……』

『大丈夫ですよ。イズーは超優秀な魔法剣士ですから、もう気づいています。どこから来るのか、私よりも分かって……』


『ちょっと待て。いま、()()()()って言ったよな』


 食い気味に訊くギイに、アリシアは引き気味に答える。


『そうですよ。魔法剣士でなければ、夜の大剣(ノクティクレイモア)なんて大層な名前のついている、すんごい魔剣を扱うことなんてできませんからねえ。……もしかして魔法剣士に興味があるんですか?』


 ギイは激しく頷いた。



『まほーけんし、大好きです……!』



『ええー? なんですか、それポッポー』


 アリシアは、つまらなそうに言う。


『私が聖女だって言ったときより、嬉しそうにしてませんか? 聖女より魔法剣士のほうが、そんなにいいんですかぁ?』

『魔法剣士は男のロマンだろ。俺もなりたい……なれるかな?』

『どうでしょう。少なくとも、歩いてすぐに倒れるようでは駄目ですね』


 アリシアは拗ねた調子で言ったあと、身体を丸めて、ふて寝し始めた。

 ギイはイズーの剣技に見とれながら、心話で呟く。


『旅の途中で魔剣とか見つからないかな。もしも手に入ったら、がんばって魔法剣士を目指したいんだけど……』


『魔剣なんて、そんなに簡単に見つかるわけないじゃないですか、ポポー。イズーだって大変な目に遭ったと聞いています。吟遊詩人が(ネタ)にしているレベルですよ』


『え、どんなのだろ。その歌、聞いてみたい――』


 二人で話しているところに、大ぶりのイノシシが突っ込んでくる。


「うわっ」


 ギイとアリシアは飛び退いた。


 幸いイノシシは血を流して絶命しており、ギイたちに襲いかかる様子はない。

 ギイが恐る恐るイノシシの様子を観察していると、イズーが振り返る。


「失礼しました、ギイ様。この一体だけは魔素獣ではなく、生身のイノシシでした。お怪我はありませんか?」


「ああ、大丈夫だ。しかし生身のイノシシが混じっているとは思わなかったな。もしかして、こいつがリーダー……ってわけでもなさそうだな」


「魔素獣は群れを作っていても、誰かの命令を聞くようにはできていません。自然現象程度にお思いください」


 イズーの言葉を裏付けるように、生身のイノシシが死んでも、魔素獣はかまわず襲いかかってくる。


「誰も操っていないのなら、こいつら何のために人間を襲うんだ?」

「人間の持つ魔素を奪うためです。さらなる魔素を手に入れ、大型化してゆくと言われています。しかし――」


 イズーは、ぼそりと言う。



「噂には聞いていたが……今年は魔素獣の数が多い」



 ギイはアリシアに訊ねる。


『エネルギー体みたいな獣が、年によって多い少ないとかあるのか?』

『クルポー……それは……まあ、いろいろある感じ、です。ええ……』


 珍しくアリシアが言いよどんでいる。

 ギイは気になってきた。


(魔素獣の数って、この世界にとって重要なことなのか? 普通の人間が襲われたら無事で済まないから、数が多いと大変なのは分かるけど……)


 アリシアに、さらに訊ねようとしたとき、イズーの声が飛んでくる。



「ギイ様、できるだけ姿勢を低くなさってください。一体ずつ相手にしていたのでは、きりがないので、まとめて倒します」


 ギイは慌てて伏せた。



(魔法剣士が「まとめて倒す」ってことは、もしかしてカッコイイ魔法が見られるのかな?)


 顔だけそっと上げようとすると、アリシアが頭の上に飛び乗ってくる。


『ほら、ちゃんと伏せて! でないと巻き添えを食らいますよ。ポッポー!』

『いてて、分かったよ』



 ギイは俯きつつも少しだけ顔を上げ、薄目を開けて観察する。


 イズーは剣を横に構えた。

 魔素獣を前に、低い声で短く唱える。



《深淵よ、我が声に応えよ

 この刃に力を宿せ!》



 次の瞬間、剣は燃えるような青白い炎に包まれた。


「…………っ!」



 真昼の太陽が落ちてきたような、強烈な光である。


 周囲の景色も、真っ白に見える。


 網膜まで焼かれそうな輝きだが、ギイは、どうにか薄目を開けてイズーを見た。


 イズーは表情一つ変えていない。



 もう一度短い文言を唱えた。


 青白い太陽が宿ったような剣を、ゆっくりと魔素獣の一群に向ける。

 炎は光の奔流となり、辺り一帯を包み込んだ。



「グアアアアアアァ…………!!」



 魔素獣たちは断末魔の叫び声を上げ、塵になって消えてゆく。


 イズーは剣を横に向けた。

 今度は側面の魔素獣が焼かれる。


 魔素獣は反撃できないまま、蒸発してゆく――。



『ギイ、顔を上げないで!』


 アリシアの叱責に、ギイは地面に顔をめり込むほど伏せた。


 イズーが三度短く唱えると、今度は背後でイノシシの叫び声が響き渡る。


 炎が迫っているのか、熱さを感じ始めた。


 たき火のような暖かさから、徐々に温度が上がってゆく。


 炎のような輝きは、ただの光ではなく、火のような熱を持っていた。


 周囲から燃えさかるような、ゴウゴウという音が聞こえてくる。



(野焼き……じゃなくて山火事? 絶対やばいだろ、これ)



 イズーを止めようとしたとき、唐突に燃えている気配が消えた。

 同時に光も消える。


 ギイは恐る恐る顔を上げた。



 周囲半径五メートルほどが焼け跡になっている。


 焦げ臭い空気を吸い込み、ギイはむせた。

 夜なので周囲の状況が、はっきりと見えないが――どうやら魔素獣はもちろん、草木もすべて焼き尽くされたらしい。


(確か、けっこうでかい木も生えていたよな。一分ぐらいで全部炭にするなんて、どういう炎だったんだ。これが魔法火力ってやつなのか……?)


 ギイは、いままでの自分の常識を捨てることにした。


 強力な力を持つ魔法剣士――剣聖の称号を持つ者だからこそ、できるのだろう。

 ギイは唾を飲み込む。



(イズーが味方でよかった。……ていうか、味方だよな? 一応……)



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