3-1 ここをキャンプ地とする!
息も絶え絶えになりながら、ギイは野宿の場所に着いた。
「ここで夜を明かしましょう」
イズーが言い終わると同時に、ギイは地面にスライディングする。
水筒を手渡されて、ギイは本日五回目のガブ飲みをした。
もう一度倒れ伏したあと、ギイは息を整えながら考える。
(この身体、マジで体力なさすぎる……。一日歩いただけなのに、バテバテどころか半分死んでるぞ。俺の身体、まだ十代だよな? 三十代だった俺よりひどいというか、公園を散歩してる七十代のじいさんにも負けるだろ)
ギイの体力のなさに、最初は心配そうだったイズーだったが、いまは「大丈夫ですか、ギイ様」と訊かなくなった。
三回目の「大丈夫ですか、ギイ様」のときに、ギイが「返事するだけでも大変だから、訊かないでくれ」と頼んだからである。
イズーはアイテムコンテナから調理器具と食材を出し、火をおこした。無駄のない動きで、夕食の準備を始める。
ギイは周囲を見渡した。
近くに小川のある、田舎のキャンプ場のようなところである。
山中の空き地にしては、一応草が刈り取られているので、旅人がよく野宿をする場所なのだろう。
大きな木には葉が生い茂り、上から覆い被さるように枝を広げているので、急な雨が降ったとしてもしのげそうだ。
肉の焼ける、いい香りがし始めた。
アリシアはタヌキらしい動きで、袋の中から、のそのそと出てくる。
『おはようございます。夜行性のタヌキからご挨拶ですよ。あら、いい匂いがしますね。ちょうどおなかがすいたところです。嬉しいですね。クッポッポ』
呑気な口調に、ギイは恨みがましい目を向ける。
『いいよな、アリシアは。ずっとイズーに運ばれたままだからなあ。動いてなかったら、腹なんて減らないだろ』
『また失礼なことを言っていますね、ギイは。しかしいまの私は、おいもとチキンソテーの匂いを感じ取ったので寛大なのです。おかずを多めにくれるなら、許してあげましょう』
『あんまり食うと、目的地に着くころには、まんまるになるぞ』
『このタヌキの身体は借り物です。魔力を貯めて聖女の身体に戻ると、実際の私――タヌキと違って細い身体になります。だから心配無用ですよう』
アリシアは得意げに、ぐーんと伸びをする。まるで茶色いもちが動いているようだ。
『聖女に身体を乗っ取られた間に、まんまるにされたタヌキの立場はどうなるんだよ』
『瀕死状態から栄養満点になったのですから、むしろ喜ぶと思いますよ。クルッポ』
アリシアと心話で喋っている間に、肉と芋が焼けたようだ。
イズーは、まずギイの分を皿に取ってパンを添えた。
「王宮でのお食事と違って質素なものですが、どうぞお召し上がりください」
「ありがとう。作る気力が全然湧かなかったから、マジで助かる」
「……ギイ様はご自身で料理をするおつもりだったのですか?」
イズーの顔には「王弟殿下が使用人のように働くなんて……」と書いてあった。
(――またやっちまった)
ギイは頭を掻く。
王族らしくないことをするたびに周囲に驚かれ、ギイは後悔していた。
だが何度も繰り返してゆくうちに、開き直ろうと決めた。
無理に取り繕ったところで、長旅だとボロが出るだろう。これが自分のやり方だと押し通したほうがいい。
ギイはイズーから皿を受け取りながら言う。
「食事は当番制がいいと思う。――といっても俺に体力がつくまでは、イズーに任せることになるだろうな。そんなわけで、しばらくよろしく」
「承知しました、ギイ様」
イズーは恭しく頭を下げた。
ギイは、さっそく肉をかじる。
「うっっっま……!」
チキンソテーは、味も柔らかさも絶妙である。添えられているソースは、ガツンとくるガーリック系で、いわゆる「ごはんが進む」系の味だ。
ここに着いたときは疲れ切って食欲がなかったが、食べているうちに、どんどん腹が減ってくる。
『おいも、おいしい! お肉、おいしい! おいもおいも肉肉パン!』
アリシアも目をギラギラさせながら一心不乱に食べている。イズーは、いつの間にかアリシアの分も皿に盛って出していたようだ。
イズーも静かに食事を取り始めた。
食べ終わって一息つくと、イズーは飲み物を渡してくる。
「ありがとう」
後口がさっぱりする温かいお茶だ。日没後、急速に空気が冷えてきたので、温かい飲み物がひときわおいしい。
「イズーのアイテムコンテナって、何でも入っているんだな。そっちのアイテムコンテナ、やっぱりでかいのか?」
「え……あ、その……」
なにげなく口にした疑問だが、イズーには予想外だったらしい。
いままで何度もイズーの驚き顔を見てきたが、今回は突然落とし穴に落とされたかのように呆然としている。
『あのー、ギイ。ちょっといいですか?』
食べ終わったアリシアが言いにくそうに続ける。
『アイテムコンテナの広さって、他人には訊かないものですよ。なんたってアイテムコンテナの広さは、魔力量と比例していますからねえ。出会ったばかりの人に、いきなり貯金額を訊くようなものですよ。……最初に言っておけばよかったですねえ』
『え!?』
ギイは心話でなく、思わず声を出しそうになった。
『アリシアは俺に言ったじゃないか。自分のはお城サイズだって』
『私はギイの事情もよーく知っていますからねえ。だから何でも疑問に答えているんですよ。でもイズーはギイの魂の事情とか、全然知りませんから、びっくりして当然ですよ。ポッポ』
言葉を失うギイにアリシアは、さらに説明する。
『たとえば、強い魔法使いのふりをする人がいたとしましょう。その人のアイテムコンテナが、実は狭かったことが敵にバレたら、魔力切れかなーってときを狙って反撃されます。イズーは騎士ですから、己の弱点になるようなことを他人には言わないと思いますよ』
『……マジでそういうこと、先に言ってくれ』
後悔せずに開き直ると決めていたが、さすがに今回は無理だった。
頭を抱えるギイを見て、イズーは意を決したように言う。
「アイテムコンテナの大きさを、具体的にどう申していいか分かりませんが……普通の人間より広めかと存じます」
(あああ、言っちゃったよ、この人。正直者だからな……)




