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2-2

『いただきまーす!』


 元気よく心話で言ったあと、アリシアは干しイモにかぶりつく。



『うわ、おいしい! おいしいですよ! すごいです! 甘いです! 最高です!』



 誰がどう見ても、ただの飢えたタヌキである。

 聖女としての姿がどうだったか、ギイは忘れそうになった。


「俺も、いただきます」


 ギイも干しイモをかじった。

 驚くほど柔らかくて、甘い。


(異世界の干しイモ、都内の物産展で売っている特産品レベルかよ。イズーが持ってきているぐらいだから、超高級品なんだろうけど……。アリシアがガツガツ食うのも分かるな)


 ゆっくり味わって食っていると、ふとイズーの視線の方向に気づいた。



 険しい顔でタヌキを見ている。


(もしかしてタヌキが苦手なのか? それともやっぱり、勝手にタヌキを連れてきたから怒ってる?)

 しばらくイズーを見ていたギイだが「違う」と判断する。


 タヌキを嫌っているのではなく、()()()()()のだ。



(やばいな。聖女だってバレたか? ……バレるわけないよな。いまのところアリシアは、背負い袋から出てきてイモ食っているだけだし、タヌキ的におかしいところはない。……でもイズーには違和感があるように見えるのか?)


 当のアリシアは干しイモを食うのに夢中で、イズーからの視線に気づいていないようだ。


 アリシアをイズーから遠ざけておくべきだろうか――。


 ギイからの視線を感じたのか、イズーはこちらを向いた。



「ギイ様、どうかなさいましたか?」


 あやうく干しイモを喉に詰まらせそうになったが、どうにか飲み込む。


「いや、なんでもない。――充分休憩したし、そろそろ出発しようか」


 ギイは立ち上がった。

 アリシアも満足げに言う。


『ごちそうさまでした。やっぱり、おいもは最高ですね。おいもおいも』


 後ろ足で耳を掻いたあと、アリシアは背負い袋に、するりと入った。どう見ても完璧なタヌキである。


 ギイはアリシア入りの袋を持とうとした。

 だが先に、イズーが肩ベルトを掴む。


「ギイ様。タヌキの袋は、私が持ちます」


 ギイは慌てて取り返そうとするが、手は空を掴む。


「俺の連れてきたタヌキだから、俺が持つよ」

「いいえ。ギイ様は、ただでさえお疲れになっているのです。このうえ、重いタヌキまで持っていては、ますますお疲れになります」


 ギイが反論するより先に、アリシアが心話で憤慨する。


『重いって……失礼ですよ! 聖女をなんだと思っているんですか!』

『イズーはタヌキが聖女だって知らないから、しょうがないだろ』


 アリシアをなだめてから、ギイはイズーに言う。


「とにかく俺が持つから」

「いけません。今日の野営場所は、まだまだ先です。夕暮れまでにたどり着くためには、ペースを上げることになります。なのでギイ様は荷物を背負わず、しっかり歩いてください」



 確かに疲れ切っているギイにとって、タヌキは文字通り重荷だろう。

 これ以上イズーに反論して、タヌキの正体を怪しまれても困るので、逆らわないことにする。


「分かった。大事なタヌキだから、慎重に運んでくれ」

「承知しました」


 イズーは軽々と担いだかと思うと、まるで何も背負っていないかのように颯爽と歩き始めた。


 悔しいがイズーが袋を持つほうが、道中うまくいきそうである。



『このほうが、アリシアも楽でいいかもな。イズーは、俺みたいにヨロヨロしていないし』

『それはそうなんですけどぉ……』


 アリシアは恨めしそうに言った。


『私のことを重いとか荷物とか言ったことは、忘れないですよう。クルッポー』

『干しイモをくれたのも、イズーだってことを忘れるなよ』


 アリシアは心話でブツブツ言っていたが、やがて静かになった。また寝てしまったらしい。



(イズー、絶対にタヌキを疑っているよな)



 わざわざ自分が運ぶと言い出したのも、ギイの体力を慮っただけではないだろう。


(疑われないようにしなくちゃな。アリシアのためにも――俺のためにも)



 タヌキが聖女アリシアだとばれると、芋づる式にギイが本物の王弟ではないと分かってしまうだろう。

 ギイとしては、どちらも避けたかった。




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