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『いただきまーす!』
元気よく心話で言ったあと、アリシアは干しイモにかぶりつく。
『うわ、おいしい! おいしいですよ! すごいです! 甘いです! 最高です!』
誰がどう見ても、ただの飢えたタヌキである。
聖女としての姿がどうだったか、ギイは忘れそうになった。
「俺も、いただきます」
ギイも干しイモをかじった。
驚くほど柔らかくて、甘い。
(異世界の干しイモ、都内の物産展で売っている特産品レベルかよ。イズーが持ってきているぐらいだから、超高級品なんだろうけど……。アリシアがガツガツ食うのも分かるな)
ゆっくり味わって食っていると、ふとイズーの視線の方向に気づいた。
険しい顔でタヌキを見ている。
(もしかしてタヌキが苦手なのか? それともやっぱり、勝手にタヌキを連れてきたから怒ってる?)
しばらくイズーを見ていたギイだが「違う」と判断する。
タヌキを嫌っているのではなく、疑っているのだ。
(やばいな。聖女だってバレたか? ……バレるわけないよな。いまのところアリシアは、背負い袋から出てきてイモ食っているだけだし、タヌキ的におかしいところはない。……でもイズーには違和感があるように見えるのか?)
当のアリシアは干しイモを食うのに夢中で、イズーからの視線に気づいていないようだ。
アリシアをイズーから遠ざけておくべきだろうか――。
ギイからの視線を感じたのか、イズーはこちらを向いた。
「ギイ様、どうかなさいましたか?」
あやうく干しイモを喉に詰まらせそうになったが、どうにか飲み込む。
「いや、なんでもない。――充分休憩したし、そろそろ出発しようか」
ギイは立ち上がった。
アリシアも満足げに言う。
『ごちそうさまでした。やっぱり、おいもは最高ですね。おいもおいも』
後ろ足で耳を掻いたあと、アリシアは背負い袋に、するりと入った。どう見ても完璧なタヌキである。
ギイはアリシア入りの袋を持とうとした。
だが先に、イズーが肩ベルトを掴む。
「ギイ様。タヌキの袋は、私が持ちます」
ギイは慌てて取り返そうとするが、手は空を掴む。
「俺の連れてきたタヌキだから、俺が持つよ」
「いいえ。ギイ様は、ただでさえお疲れになっているのです。このうえ、重いタヌキまで持っていては、ますますお疲れになります」
ギイが反論するより先に、アリシアが心話で憤慨する。
『重いって……失礼ですよ! 聖女をなんだと思っているんですか!』
『イズーはタヌキが聖女だって知らないから、しょうがないだろ』
アリシアをなだめてから、ギイはイズーに言う。
「とにかく俺が持つから」
「いけません。今日の野営場所は、まだまだ先です。夕暮れまでにたどり着くためには、ペースを上げることになります。なのでギイ様は荷物を背負わず、しっかり歩いてください」
確かに疲れ切っているギイにとって、タヌキは文字通り重荷だろう。
これ以上イズーに反論して、タヌキの正体を怪しまれても困るので、逆らわないことにする。
「分かった。大事なタヌキだから、慎重に運んでくれ」
「承知しました」
イズーは軽々と担いだかと思うと、まるで何も背負っていないかのように颯爽と歩き始めた。
悔しいがイズーが袋を持つほうが、道中うまくいきそうである。
『このほうが、アリシアも楽でいいかもな。イズーは、俺みたいにヨロヨロしていないし』
『それはそうなんですけどぉ……』
アリシアは恨めしそうに言った。
『私のことを重いとか荷物とか言ったことは、忘れないですよう。クルッポー』
『干しイモをくれたのも、イズーだってことを忘れるなよ』
アリシアは心話でブツブツ言っていたが、やがて静かになった。また寝てしまったらしい。
(イズー、絶対にタヌキを疑っているよな)
わざわざ自分が運ぶと言い出したのも、ギイの体力を慮っただけではないだろう。
(疑われないようにしなくちゃな。アリシアのためにも――俺のためにも)
タヌキが聖女アリシアだとばれると、芋づる式にギイが本物の王弟ではないと分かってしまうだろう。
ギイとしては、どちらも避けたかった。




