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1-2

 イズレイルは頷く。


「我々が昼間に移動する以上、どの道を通ろうが、どれだけ変装しようが、王都周辺だと皆に気づかれます。ならば、いまは堂々と歩き、夕刻に森へ入って旅用の装束になったほうが、よろしいかと思います」


「変装後のギャップを出すために、わざと目立つようにしているのか」


「それでも気づかれるときは気づかれると思いますが、少なくともいまは無理に隠れようとする必要はありません」


 イズレイルは言葉を切ったあと、付け加える。


「もちろん殿下は、わざわざ目立つ必要はありません。注目を集めるのは、私だけで充分かと。何者かに襲われたとしても私が相手をしていれば、その間に殿下はお逃げになることができます」


「イズーを置いていけるわけないだろ。無茶言うなよ」


「いいえ、これは当然のことです。主君の盾になることは、臣下に求められることですから」


 一切の迷いがない口調である。



「……俺、そういうの嫌なんだけど。勘弁してくれよ」



 ギイは正直に言った。


 もしも生まれながらの王弟なら、家臣が自分のために命を捨てると言っても、平然としていられただろう。

 しかし自分は、折れた標識から他人をかばったため、異世界に来てしまった人間なのだ。他人を犠牲にすることなど、簡単に受け入れられるはずがない。


 ギイの事情を知らないイズレイルは、驚いたように目を見開いた。

 そして少しだけ厳しい表情になる。


「恐れながら殿下。たとえ、お嫌でも――そのときが来たら、家臣に対して何を命じるのが最善か、考えねばなりません。それは上に立つ者の責務かと存じます。なので迷いなくお願いします」


 ギイは、すぐに返答しなかった。

 イズレイルの立場では、そう言うのが当然だろう。


 だが分かっていても――無理だ。


「……そんな選択をする日が来ないことを祈ってる」


 考えた末、ギイは肯定も否定もしなかった。


「ところで変装するのは、もちろん大事だが、まずお互いの呼び名を変えないか? さすがにずっと殿下と呼ばれると、あからさまに怪しいだろ」


「仰せのとおりです」


「その堅苦しい喋りも、もうちょっとなんとかならないかな。ずっと王族に対して使うような敬語じゃないか。そこを変えよう」


 イズレイルは困ったように眉を寄せるが、逆らわなかった。


「できるだけ努力してみたいと思います」

「よし」


 ギイは歩きながら続ける。


「そんなわけで、俺のことはギイと呼んでくれ」

「ギイ様、ですか」

「様もつけなくていいよ」


 イズレイルの眉がわずかに上がり、厳しい顔になる。


「お言葉ですが、殿下……ではなく、ギイ様。我々は主従という立場を崩さないほうがよろしいかと思います」

「なんでだよ。兄弟とか友達同士が旅をしているという、偽装では駄目なのか?」

「それは難しいかと思います」


 イズレイルは語り始める。



「理由は三つあります。まず第一に我々の見た目です。我々は顔も体格も似ていないので、兄弟というには無理があります。かといって年齢も趣味も違うので、友人同士にするためには、あらかじめ設定を決め、口裏を合わせておく必要があります。しかし多くの嘘で固めた場合、私の知るかぎりでは、偽装が失敗する確率は高いのです」


 一つ目だけで、ギイが諦めるには充分だった。

 しかし一応、二つ目も聞くことにする。



「第二の理由ですが、あらゆる決断を下すときです。我が(あるじ)はギイ様であらせられるので、私の意見は常にギイ様にお伝えして判断を仰ぐことになります。その時点で対等でないことは、誰にでも分かるでしょう。友人同士というのは無理があります」


「三つ目は?」


 イズレイルは大真面目に答えた。



「私は演技が下手で、隠し事も上手くありません。実際の身分に近いほうが、やりやすいのです」

「……確かに正直者だなあ」


 ギイは、イズレイルと友人同士という設定を諦めた。


「じゃあ俺がどこかの金持ちの次男で、イズレイルは用心棒とかでいいかな」

「それでしたら、私でも何とかなりそうです」

「それで、イズレイルのことは何と呼べばいい?」


 イズレイルは少しの間考えたあと、目を細めて微笑んだ。


「では、イズーと。幼少のころ、身内にそう呼ばれておりました」


 楽しかった子供時代を思い出したような顔だ。


「イズーか。短くて呼びやすい。いい名前じゃないか」


 つられてギイも笑うと、イズレイル――イズーは、うやうやしく頭を下げた。


「恐れ入ります、ギイ様」 

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