1-1 二人と一匹、旅に出る
このシリーズの番外編「ハウスメイド、推しの話をする」も、どうぞよろしくお願いします。
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ギイが出立する前の話を、メイド目線で書いたものです。
完結済み。
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ギイたちが西の城門を出ると、緑と土が広がっていた。
種まきのために畑を耕している真っ最中のようで、畝が綺麗に並んでいる。
畑を囲むように、春の野花が咲いていた。
その間をまっすぐ、舗装していない道が続いている。
踏み固められた土でできている細い街道は、遠くの森に向かってまっすぐ伸びていた。
先に歩くのはイズレイルで、ギイは、あとに続く。
目的地までの道筋はイズレイルしか知らない。
ギイも城の外を歩くのは初めてなので、イズレイルの背中を見ながらついて行くほうが性に合っていた。
周囲を見渡していると、ギイはつまずきそうになる。舗装されていない道は、でこぼこしていて、石ころもあちこちに転がっていた。
王都へ続く街道というより、田舎のたんぼ道である。
(道幅も狭いよな。馬は走れそうだけど、馬車は難しそうだ。この道を使って、王都に大量輸送できないよな。だいたい西門自体も小さかったし、このルートは、あまり使われてないのかな)
『ポッポポ、ギイ。いま貴方は、狭い道だなあって考えました?』
突然声が聞こえてきて、ギイは飛び上がりそうになる。
背負い袋の中に入っているタヌキ――アリシアが心話で話しかけてきたのだ。
『な、なんで分かったんだよ。ていうか、寝ていたんじゃなかったのか?』
『寝ていましたが、門番さんが賑やかだったので起きましたよう。クルッポー』
『ああ……』
ギイは、三十分前の出来事を思い出す。
西門にイズレイルが到着するや否や、ギイたちは門番全員から大歓迎を受けた。
「イズレイル様が王都を離れると聞いて、我々も名残惜しく……ウッ」
黒竜騎士団と同じように、門番にまで涙ぐまれて、ギイは罪悪感で胃が痛くなった。
イズレイルは英雄のように堂々と言う。
「先を急ぐので、長く別れを惜しむことはできない。――だが、いつの日か私は必ず帰ってくる。そのときは共に再会を祝おう」
「イズレイル様……なんという、頼もしいお言葉……」
門番たちは涙を流し始めた。
その騒動のせいで、アリシアが目を覚ましたらしい。
『西の街道に驚くのは、ギイだけじゃありません。みんな、びっくりするんですよう。私も初めて西門を使ったとき、やっぱり道が細いって思ったんですよね。ポロッポ』
アリシアは陽気に説明する。
『王都には東西南北に門がありますが、一番大きいのは南門です。南門から出たら、道幅の広い綺麗な石畳の街道が見られたでしょうね。でも西門からだと森へ続く山道だから、狭くて通る人も少ないんです。なかったらなかったで不便だから、存在しているんですけどね』
『やっぱり、立派な道は別にあるのか』
納得したあと、別の疑問が湧いてくる。
『アリシアって、王都に住んでるんじゃないのか?』
『違いますよ。王都じゃなくて、ここから南東へ、ずーっと行ったところにある神殿に住んでいます』
『聖女が神殿にいなくて大丈夫なのか?』
『しばらく戻ってこないことは皆に伝えていますし、神殿には聖女代行の者もいます。なので仕事が滞るってことはないですよ。……でも、ずっとタヌキのままは、まずいですよね。旅の間に魔力を蓄えて、聖女に戻ります。ポポポ』
アリシアは背負い袋の中で寝返りを打ったように、もぞもぞと動いた。
やがて穏やかに言う。
『そんなわけで、おやすみなさい。休憩大事。何かあったら呼んでください。おやつやごはんを食べる前には、必ず声を掛けてくださいよ』
『袋の中でずっと寝ているのに、腹は減るのか』
『ゴロゴロしていてもおなかが減るのは、タヌキも人間も同じです。ああでも、お食事の前までには、私をギデイン卿に紹介してくださいねえ。怪しいタヌキとかって、真っ二つにされたら、お食事ができなくなりますから……むにゃむにゃスピポポ』
アリシアは、この世界のタヌキらしい独特の寝息を立て始める。
その音をイズレイルに聞かれるのではと、ギイは心配になった。
しかしイズレイルは、主に前方を警戒しながら歩いているので、タヌキの寝息には気づいていないらしい。
遠くの畑から、声が聞こえてくる。
「イズレイル様ぁ!」
「道中、お気を付けて」
声のほうを向くと、畑を耕す老夫婦が大きく手を振っている。
イズレイルも右手を挙げた。
「皆も元気でな!」
老夫婦は恐縮して、何度も頭を下げた。
「イズレイル様――っ! こっちにもお手振り、お願いしまーす!」
今度は若い娘だ。
(……イズレイルって、この世界のアイドルか何かなのか?)
困惑するギイをよそに、イズレイルは呼びかけに応えて手を挙げる。
キャーッという声が上がり、ギイはイズレイル=アイドル説を確信した。
歩いている間、あちこちの畑から声が掛かる。追放されている最中だというのに、まるで凱旋のようだ。
人目を忍んで王都を出るつもりだったが、西門を通るときも、西の街道を行くときも、イズレイルは目立っている。
(俺たち、道中は暗殺者に狙われるんじゃなかったっけ? ていうか、イズレイルにその自覚あるのかな。それとも暗殺者云々は、アリシアの妄想で、本当は普通に転勤なのか? ……ああでも、玉座の間では殺伐としてたもんな。騎士団も門番も泣いてたし、普通の転勤のわけないか)
眉間にしわを寄せて考え込んでいると、イズレイルは、さりげなくギイと並ぶ。
「人々の注目を集めて、落ち着かないかと存じますが、いましばらくのご辛抱を」
「みんなに見られまくっているのは、わざとなのか?」




