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1-1 二人と一匹、旅に出る


このシリーズの番外編「ハウスメイド、推しの話をする」も、どうぞよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n8534jn/

ギイが出立する前の話を、メイド目線で書いたものです。

完結済み。



.

 ギイたちが西の城門を出ると、緑と土が広がっていた。


 種まきのために畑を耕している真っ最中のようで、(うね)が綺麗に並んでいる。


 畑を囲むように、春の野花が咲いていた。


 その間をまっすぐ、舗装していない道が続いている。


 踏み固められた土でできている細い街道は、遠くの森に向かってまっすぐ伸びていた。




 先に歩くのはイズレイルで、ギイは、あとに続く。


 目的地までの道筋はイズレイルしか知らない。

 ギイも城の外を歩くのは初めてなので、イズレイルの背中を見ながらついて行くほうが性に合っていた。


 周囲を見渡していると、ギイはつまずきそうになる。舗装されていない道は、でこぼこしていて、石ころもあちこちに転がっていた。

 王都へ続く街道というより、田舎のたんぼ道である。


(道幅も狭いよな。馬は走れそうだけど、馬車は難しそうだ。この道を使って、王都に大量輸送できないよな。だいたい西門自体も小さかったし、このルートは、あまり使われてないのかな)


『ポッポポ、ギイ。いま貴方は、狭い道だなあって考えました?』


 突然声が聞こえてきて、ギイは飛び上がりそうになる。


 背負い袋の中に入っているタヌキ――アリシアが(しん)()で話しかけてきたのだ。


『な、なんで分かったんだよ。ていうか、寝ていたんじゃなかったのか?』

『寝ていましたが、門番さんが賑やかだったので起きましたよう。クルッポー』

『ああ……』


 ギイは、三十分前の出来事を思い出す。



 西門にイズレイルが到着するや否や、ギイたちは門番全員から大歓迎を受けた。


「イズレイル様が王都を離れると聞いて、我々も名残惜しく……ウッ」


 黒竜騎士団と同じように、門番にまで涙ぐまれて、ギイは罪悪感で胃が痛くなった。

 イズレイルは英雄のように堂々と言う。


「先を急ぐので、長く別れを惜しむことはできない。――だが、いつの日か私は必ず帰ってくる。そのときは共に再会を祝おう」


「イズレイル様……なんという、頼もしいお言葉……」


 門番たちは涙を流し始めた。


 その騒動のせいで、アリシアが目を覚ましたらしい。



『西の街道に驚くのは、ギイだけじゃありません。みんな、びっくりするんですよう。私も初めて西門を使ったとき、やっぱり道が細いって思ったんですよね。ポロッポ』


 アリシアは陽気に説明する。


『王都には東西南北に門がありますが、一番大きいのは南門です。南門から出たら、道幅の広い綺麗な石畳の街道が見られたでしょうね。でも西門からだと森へ続く山道だから、狭くて通る人も少ないんです。なかったらなかったで不便だから、存在しているんですけどね』


『やっぱり、立派な道は別にあるのか』


 納得したあと、別の疑問が湧いてくる。


『アリシアって、王都に住んでるんじゃないのか?』


『違いますよ。王都じゃなくて、ここから南東へ、ずーっと行ったところにある神殿に住んでいます』


『聖女が神殿にいなくて大丈夫なのか?』


『しばらく戻ってこないことは皆に伝えていますし、神殿には聖女代行の者もいます。なので仕事が滞るってことはないですよ。……でも、ずっとタヌキのままは、まずいですよね。旅の間に魔力を蓄えて、聖女に戻ります。ポポポ』


 アリシアは背負い袋の中で寝返りを打ったように、もぞもぞと動いた。

 やがて穏やかに言う。


『そんなわけで、おやすみなさい。休憩大事。何かあったら呼んでください。おやつやごはんを食べる前には、必ず声を掛けてくださいよ』


『袋の中でずっと寝ているのに、腹は減るのか』


『ゴロゴロしていてもおなかが減るのは、タヌキも人間も同じです。ああでも、お食事の前までには、私をギデイン卿に紹介してくださいねえ。怪しいタヌキとかって、真っ二つにされたら、お食事ができなくなりますから……むにゃむにゃスピポポ』


 アリシアは、この世界のタヌキらしい独特の寝息を立て始める。

 その音をイズレイルに聞かれるのではと、ギイは心配になった。

 しかしイズレイルは、主に前方を警戒しながら歩いているので、タヌキの寝息には気づいていないらしい。



 遠くの畑から、声が聞こえてくる。


「イズレイル様ぁ!」

「道中、お気を付けて」


 声のほうを向くと、畑を耕す老夫婦が大きく手を振っている。

 イズレイルも右手を挙げた。


「皆も元気でな!」


 老夫婦は恐縮して、何度も頭を下げた。


「イズレイル様――っ! こっちにもお手振り、お願いしまーす!」


 今度は若い娘だ。


(……イズレイルって、この世界のアイドルか何かなのか?)


 困惑するギイをよそに、イズレイルは呼びかけに応えて手を挙げる。

 キャーッという声が上がり、ギイはイズレイル=アイドル説を確信した。


 歩いている間、あちこちの畑から声が掛かる。追放されている最中だというのに、まるで凱旋のようだ。

 人目を忍んで王都を出るつもりだったが、西門を通るときも、西の街道を行くときも、イズレイルは目立っている。


(俺たち、道中は暗殺者に狙われるんじゃなかったっけ? ていうか、イズレイルにその自覚あるのかな。それとも暗殺者云々は、アリシアの妄想で、本当は普通に転勤なのか? ……ああでも、玉座の間では殺伐としてたもんな。騎士団も門番も泣いてたし、普通の転勤のわけないか)


 眉間にしわを寄せて考え込んでいると、イズレイルは、さりげなくギイと並ぶ。


「人々の注目を集めて、落ち着かないかと存じますが、いましばらくのご辛抱を」


「みんなに見られまくっているのは、わざとなのか?」


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