表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/48

1-2

(……荷造り、大変だったな)


 ギイは昨日のことを反芻し、心の中でため息をついた。


 アイテムコンテナは、持ち主以外が開くことはできないらしい。

 ギイのアイテムコンテナは、すでにギルロード用に設定されていた。

 したがって王宮の使用人はもちろん、聖女であるアリシアでさえ開けられないのだ。


「そんなわけでギイ、貴方の荷物は自分で詰めてください」


 ギイは、げんなりする。

 以前の自分の身体ならともかく、いまの身体は細くて弱々しいのだ。できれば肉体労働はしたくない。


「身分の高い人間も、トラックの荷積みたいなことをするのか?」


「しませんねえ。貴族は自分のアイテムコンテナに大きな荷物を入れないものです。なので、大勢の使用人に荷物運搬用の特注コンテナを与えて、ギュギュッと荷物を詰めた状態で一緒に旅するんですよ。ギイには今回、お世話係がついていないでしょう? だから、自分でがんばってくださいね。クルッポー」


「はいはい、追放された身だから、自分でなんとかしますよ……っと」


 ギイは、やけ気味に言った。



(サツマイモ三箱、ジャガイモ一箱、カボチャ一箱。この身体、筋肉がろくについてないから、二日後ぐらいに筋肉痛になりそうだ。猫の手も借りたいって表現があるけど、寝転がっているタヌキの手も借りたかったな……)


 ギイは無意識のうちに、自分の腰を叩いた。


(旅の食料に根菜ばっかり頼んだから、メイドさんも変な顔をしてたよな。もっと日用品とか本とか、そういうのを入れたらいいんだろうけど、この世界の旅って、どんなものが必要なのか分からないもんな)


 ギルロードの他の部屋にも入ってみたが、驚くほど私物がなかった。

 とりあえず着替えの服や、道中役に立つかもしれない礼服は、持って行くことにする。


 魔法に関するものは何一つ見当たらなかった。

 たくさんの魔法書が書架に並んでいると思っていただけに、拍子抜けである。


『ギイ。出発前に、心話の練習をもうちょっとやってみますか?』


 アリシアが、ギイの心の中に呼びかけてきた。


 心話とは、声を出さずに喋る方法である。

 話そうと思うことを組み立て、相手の心に向かって押し出すという魔法だ。

 上級魔法の類いらしいが、ギイはあっさりできた。アリシアが驚きを通り越して、不審がったほどである。


『もう練習しなくても大丈夫だよ。いまもこうやって話ができている』

『無理してませんか? しっかり慣れておかないと、かなり疲れるはずですよ』

『いや、声に出して話すことと全然変わらない。たぶん相手がアリシアのせいだよ。俺の魂をこねたからなあ』


 アリシアがギイの魂に干渉したせいで、特別な繋がりができたのだろう。

 実際ギイは、アリシア以外の相手と心話で話ができる気がしなかった。

 アリシアはタヌキの顔のまま、にっこり微笑む。


『そういうことでしたら、納得です。ここまで違和感なく心話が使えるのでしたら、動物相手にブツブツ話し続ける変な人にならずに済みますよ。よかったですねえ。ポッポポポ』


『変な人って、ひどいな。ネコ相手に喋る人間もいるだろ』


 文句を言ったあと、ギイは苦い気持ちになる。


『確かに、俺は国王(アニキ)に嫌われている引きこもりだから、このうえ独り言属性まで付けたくないな』


 タヌキのアリシアの言葉は、どうやらギイ以外の人間には、ただの「クルッポー」としか聞こえないらしい。

 タヌキ相手に真剣な話をしているギイを見たら、一緒に旅する予定の剣聖イズレイルも離反しそうである。


『だからといってスライド上映のときみたいに、ずっとアリシアに心を読まれながら会話するのもなあ。心話をマスターできて、マジでよかった』


『私だって、常に心を読みながらっていうのは嫌ですよう。一方的で疲れるし、お年頃の男性の心って、いろいろと複雑ですからねえ』


 きわどい指摘をされて、ギイは赤くなる。


『あー、もう、絶対に読むなよ! 絶対だぞ!』


 念押ししたあと、ギイは両手で自分の頬を叩く。


『あとは剣聖が、タヌキを旅に連れて行くことをどう思うかだよな。アリシアをアイテムコンテナの中に入れて運べたら、怪しまれずに済むんだろうけど……』


『絶対に嫌です!』


 言葉をかぶせるように、アリシアが言った。


『昨日も言いましたが、アイテムコンテナの中と外とでは時間の進み方が違うんです。()()()()()()、中で時間を潰しても、外ではほとんど時間が経っていないのですよ』


『そんなものなのか』


『ギイも、アイテムコンテナから出たとき、外の時間があまり経ってないなって思いませんでしたか?』


 ギイは昨日のことを思い出す。


『確かに荷物を詰めたあと、外は夕方になっているかと思っていたら、まだ真昼だったな。……なんだ、俺も影響を受けるのか』


『個人差はありますが、誰でも多少は影響を受けますよ。私、アイテムコンテナの中で丸一日過ごしたことがありますが、外の時間は数分しか進んでいませんでした』


『え、マジか』


 アリシアは憤慨したように頷く。


『だから私、アイテムコンテナに入れられて、ずーっと旅するなんて、絶対に絶対に嫌ですからね!』

『分かった。アリシアをアイテムコンテナに入れっぱなしとか、絶対にしない』


 アリシアは表情を和らげ、上等そうな背負い袋をくわえてきた。


『そんなわけで、昨日決めたとおり、これに私を入れて背負ってください。もうじきお迎えが来ますよ』

『はいはい。……重いタヌキじゃありませんように』

『失礼ですよ、クルッポポポポ!』


 ギイは、抗議するアリシアの両脇を掴み、背負い袋の中に入れた。


 そして慎重に肩紐を腕に通してみる。

 背負い袋の重みで、肩がマントごと後ろに引っ張られるが、歩くのに支障はなさそうだ。

 タヌキの丸い身体は全部肉ではなく、毛の部分も多かったらしい。



 ノックの音がした。


「殿下。お時間です」


 王宮付きの執事の声である。


「分かった」


 ギイは袋を背負ったまま背筋を伸ばし、部屋の外に出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ