1-1 ギイ、アイテムコンテナを手に入れる
次の日は、恐ろしいほどの快晴だった。
アリシアが言うところの「絶好の追放され日和」である。
(単なるキャンプや、日帰りBBQだったら楽しいんだけどなあ。暑すぎないし、杉花粉だってアレルギー起こすほど飛んでなさそうだし)
幸いだったのは、昨日の夕食も今日の朝食も昼食も、皿から光が出ているかのように、見た目も味もすばらしかったところだ。
しかし今日の夕食からは、単なるキャンプ飯になりそうである。
ギイは首からぶら下がっている金属のペンダントを、無意識に触れそうになって、すぐに手を引っ込めた。
昨日のことを思い出したからである。
「荷物をたーくさん入れましょうねえ。ギイのアイテムコンテナは、けっこう大きい気がしますよ。クルッポー。どのぐらいの大きさか楽しみですねえ」
アリシアは上機嫌に言った。
「アイテムコンテナ?」
ギイは、キャンプ用品一式を入れるプラスチック製の大きな箱を思い浮かべた。
コンテナは、カートに乗せて移動するなら便利だろう。
もしも馬車が使えるなら、荷物を大きめのコンテナに入れて旅するのもいいかもしれない。
だが今回は事情が違った。
「アリシア。追放――じゃなくて俺の転勤の旅は、馬を使っちゃ駄目なんだろ? 全部徒歩だって聞いたぞ。コンテナ担いで行くのは無理じゃないか?」
「コンテナを担ぐ?」
アリシアは不思議そうに首をかしげる。
「コンテナは首から、ぶら下げるものですよう」
「どういう形状しているんだよ、こっちのコンテナは」
アリシアが説明する前に、メイドが美しい細工の施された箱を持ってきた。
蓋を開くと、黄金色に輝く金属製のペンダントが入っている。
表面に細かい模様があり、男性向けのアパレルショップで売っていても違和感がない。
レリーフ模様は盾を支える竜と獅子。玉座の間で見た、リーファニア王国の紋章である。
間違いなく王家専用のものだ。
「これに荷物を入れるんですよう。クルッポー」
メイドが退出すると同時に、アリシアはベッドの下から這い出てきた。
「こんなものにどうやって荷物を入れるんだよ」
「首に掛けて触ってみてください」
ギイは言われたとおりにする。
突然、目の前の風景が変わった。
白い壁の、ウォークインクローゼットのような空間が広がっている。
服が三着ほど掛けられている以外、何もない。
「え、物置……的なやつ?」
ペンダントを触っただけなのに、何故突然、見知らぬ部屋に飛ばされたのだろうか。
ギイがペンダントにもう一度触ると、元の部屋に戻った。
「いまの物置、なんだったんだ。王宮にあるやつにしては、小さかったけど。うちの実家にあるような感じだった」
「ギイには部屋に見えたんですねえ」
アリシアは感慨深げに言う。
「アイテムコンテナは、使う人の魔力の量とコンテナの値段によって、サイズが変わってきます。普通の人は日用品程度しか入れられない――つまりロッカーぐらいの大きさなんです。王家のものだから、特別性能のいいアイテムコンテナなんでしょうけど、部屋サイズのものが現れるのは凄いですよ。ギイ自身の力のせいでしょうね」
「つまり……俺には魔力があるってことか?」
「間違いなくありますよ。そもそもギルロード殿下が引きこもっていたのも、独学で魔法を学んでいたという噂もありますからねえ。ポッポッポ」
「じゃあ、俺は魔法使いになれるのかもしれないのか。いいな、それ」
ギイは楽しくなってきた。
(ひ弱そうだから剣士は無理っぽい気がしてたけど、魔法使いも悪くないな。どこでジョブ選択すればいいんだろ。早く魔法をバンバン使ってみたいなあ)
「ちなみに」
アリシアが得意げな顔になる。
「聖女たる私は、お城サイズのアイテムコンテナを持っていますよ。……いまはタヌキだから全然ですけどね。ポッポッポ」
「あー、やっぱガチの魔力持ちは、そういうサイズかー。まあ、俺には魔法に関する記憶も全然ないしなー。魔法使いになってみたかったんだけどなあ」
魔法を使って無双というのも、いまのところ無理なようである。
「でも四次元ポケットみたいなのを使えるのはいいな。記憶が全然なくても、けっこう使えるっぽいし」
アリシアは不思議そうな顔をする。
「あちらの世界にアイテムコンテナはないのですか?」
「ない」
「じゃあどうやって旅行の荷物を持っていくんです」
「大きいバッグに詰めるんだよ」
「ポルポッポー!」
アリシアの目が、まん丸になった。
「手で持ったら重くないですか? 旅の間、ずっと持っているんでしょう? 大丈夫なんですか?」
「旅行の荷物は、できるだけ減らすし、そもそも荷物が重いのは普通のことだから、みんな気にせず持ってる」
「旅の剣士とか、どうなさっているんです。鎧が二組と剣四本とか必要なことってあるでしょう? 騎士であるなら礼装も必要になってきます。必要なものは減らしようもないし、かといって普通のバッグにも入らないでしょう?」
「いや、あっちの世界に旅の剣士とかいないから……」
「言われてみれば……確かに、いませんでしたね」
アリシアは心底驚いたように吐息を漏らした。
「あちらの世界には、かわいいバッグ以外に大きなバッグを持ってた人もいましたが、あれってファッションじゃなくて、荷物入れだったんですね……」
「遅れている世界みたいな言い方すんな。一応宅配便とかホテル預かりとかポーターとか、いろんなシステムがあるんだぞ」
タヌキから同情的な目で見られると、ギイは言い返さずにいられない。
「だいたいアイテムコンテナは、魔力を持っていないと使えないんだろ。あっちの世界に魔力持ちなんて全然いないんだから、なくて当たり前だ」
「そうでした。……私としたことが、うかつでした」
小さく舌を出したあと、アリシアの目が、キラリと光った。
「ギイのアイテムコンテナの大きさは、よく分かりました。食べ物がたくさん入りそうですね。いいことです。おいもは絶対にいっぱい持って行きましょう! 忘れてはいけませんよ。おいもおいもサツマイモ」
アリシアは聖女としてのプライドを捨て、いまや身も心も一匹のタヌキになっていた。
「分かった分かった。イモをいっぱい入れるから、理性を取り戻してくれ」




