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「玉座の間で国王陛下は証拠があると言いましたが、本当はギイを有罪にするには弱いのだと思います」
「そうなのか?」
「自信があるなら、あの場で詳しく言ってたと思いますよ。こういう理由でこれから投獄して裁判をする、みたいな」
確かに国王は「情報を得ている」とは言っていたが、そのあとは、反逆は看過できないなどと、うやむやにしていた。
初めて見た国王に圧倒されたので気づかなかったが、あの場ではっきりと断罪することもできたのである。
「エラソーだったわりには、肝心なこと言ってなかったよな。めっちゃ雰囲気作ってたけど、ハッタリだったのか?」
「全部がハッタリというわけではないでしょうが、もしかすると八割ぐらいは、その場のノリだったかもしれませんね。ポッポ」
アリシアは、あっさり言った。
「ラスボス顔の王様のくせにテキトーなんだな。そういうヤツなのか?」
「ある意味賢いというか、策略家なのでしょう。だからこそギイの裁判をして、有罪まで持って行くのは大変だと分かっているのでしょうね」
「仲悪い相手が策略家ってのは嫌だけど、急に首を刎ねるタイプよりはマシか」
ギイは少し、ほっとした。とりあえず今日死ぬ心配はしなくてよさそうである。
安心したとたん、腹が鳴った。
「そういや朝メシの途中だったな」
スプーンで自分の顔を見てから、ずっと洗面所にいたので忘れていた。
「私もおなかが空きました。あのぐらいでは食べ足りませんからね。ポポー!」
アリシアは動物らしい、ギラギラとした目になった。
ギイはタヌキの身体を持ち上げる。
「もう冷めたかもしれないけど、一緒に食うか」
ギイとアリシアは朝食に戻った。
料理は少しだけ冷めていたが、味は最高だった。
オムレツとパンは、ふんわり。ベーコンは、がっつり。ポテトはサクサクだ。
サラダもみずみずしく、食べているだけで健康になれる気がする。
アリシアは、ずっと「おいも、おいしいですね。ベーコン最高ですよう!」と言い続けていた。
満腹になり、ギイはフルーツジュースを飲みながら考える。
(やっぱ「死刑になるかも」って状況は、けっこうストレスだったんだな。腹が膨れたら、この世界も悪いことばっかじゃない気がしてきた)
もしも城の中で「投獄、有罪、死刑」という流れだったら、逃げようがない。
だが「旅の途中で暗殺」の場合は、逃げられる可能性も充分あるのだ。
(おいしい朝食も食えたんだから、悪いことばっかじゃないか)
「あの強そうな剣聖も、一緒に旅するんだよな。あいつは味方だよな? 戦力的には当てにしているんだが……」
「あのかたは大丈夫ですよ。とても生真面目で、裏切りとは無縁の性格です。真面目すぎて融通が利かないところもありますが、頼りになると思います」
「よかった。バリバリ敵を倒してくれそうだから助かる」
アリシアは上品な動きで毛繕いをする。
「そもそもギデイン卿のご実家は王弟派ですから、どう考えても敵にはならないのですよ。安心なさってください」
ギイは玉座の間でのやりとりを思い出す。
「そういやパワハラ兄貴も、剣聖の実家が俺の後見役とか言ってたな」
「よく覚えてらっしゃいましたね。さすがです!」
アリシアは二本足で立ち、前足で拍手した。
「あのかただけでなく、他の有力貴族の中にも王弟派がいます。ギイは王様と関係が悪くなっていますが、お味方もけっこういらっしゃるのですよ。旅の途中で、こっそり助けてくれることもあるでしょう」
「味方がいるのはいいけど……」
ギイは嫌な予感がする。
「なあ、もしかしてこの国、国王派と王弟派で分裂していたりする?」
アリシアはもう一度拍手する。
「大当たりです! もしかして、いい具合に魂が混ざって、記憶が戻ってきましたか?」
「いや、ちょっと考えたら分かるというか……」
ギイは頭を抱える。
「兄貴が俺を敵視する理由がよく分かった。織田信長と弟みたいなものか。兄弟どっちにも家臣がついて争うとこなんか、似てるよな。うちのパワハラ兄貴も弟が目障りになるわけだ」
「オダノブナガ? お知り合いのかたですか?」
「いや、歴史上の人物だよ。学校で習うし、漫画やドラマやゲームの主人公によくなっているから、日本人はみんな知ってる」
「そんな有名な人も、兄弟で争っていたんですねえ」
アリシアは感慨深げに言ったあと、無邪気に訊く。
「それで、オダノブナガさんご兄弟は、どうなったんですか?」
「……弟が兄貴に殺されて終わり」
アリシアとの間に、一瞬気まずい空気が流れた。
「ギイはそうならないように、気をつけましょうねえ……クルクルポポー」




