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この領にある冒険者ギルド支部の役割は、辺境領戦闘団への就職斡旋である。稼ぎが良く、待遇が良く、そして何よりも、そこにあれば死なないからだ。故に人気は非常に高く、有象無象が日々群がる。其奴らを選別して、最低水準を満たした者を推薦する、それが彼らの業務だ。そもそもこのギルドに何かを依頼する者などいない。
戦闘団が求め、育てる人材の条件は、継戦能力を失わないことである。不定期に昼夜を問わずに起こる氾濫を制し、その遺骸を収益化する。そのために必要な第一が死なないことであり、故にここへ所属する者への要求水準はバカ高い。もちろん、教練はそれを前提に行われるし、試験に受からない者は参加を許されない。死んでしまうからだ。因みに第二は鼻が効くことだ。気配察知、危険予知、そして弱点看破などのスキルを持つ者だ。
黒の森の外で小さな魔物を狩って階位を上げてきた者に共通するのが、盾装備だ。大盾に小盾、肩につけるおまけのようなそれ。
まずそれを外さなければギルドの選抜すら抜けられない。何故か。
この森の魔物相手に盾を構える愚かしさを知る、それは絶命の瞬間である。一〇〇キロがいいところの戦士が構える盾に、一〇〇〇キロの魔物が時速八〇キロで突進するとして、ヒト族の身体強化で耐えうるかと言えば、まあ無理だ。うちの兄共にやらせるなら可能ではあるだろうが、奴らはそんな非効率な戦いをしない。
領民にしてみれば常識の、回避。物心つく前から徹底して教えられ、身につけられねば小馬鹿にされる技術。狙わせ引きつけ、避ける。攻撃はその後で良い。何なら攻撃など他の誰かに任せてもいい、それがこの森で生き残るために必要な、そして最低限の技だ。
経験を積めば捌きやパリィなども選択肢に加わるが、それを行使できるのは極々一部の者に限られる。特に、この領で主流とされる得物の一つ、斧でそれが出来るのは一桁に限られる。もう一つである槍であれば幾らか難易度も下がるが、それでもわざわざ会得せねばならぬ技ではなく、余興のようなものだ。