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「ここが、あのたぬきのハウスね……」
「ああ……」
貧民街の一角、伯爵と執事の住処である。立派なものだ。邸宅を兼ねていた城のガワを閣下の自衛隊に前哨基地として、そして中身を商人に売却し、しかし爵位の返上はせずに落ち着いたのがここだ。弔問金の残額を揃えるのにわずか一ヶ月、たぬきも大概の人物だったようだ。
「ごめんよ!」
「邪魔するぞ」
ナッキーと二人、建てつけの悪い扉を押し開けて、あばら家に押し入る。
「やあ、ごきげんよう。彼らは出立したかい?」
「ああ、他の三〇〇余名と一緒にな。あいつらを放出してくれたこと、礼を言うよ、伯爵」
「俺からも。無理をさせたな」
「それは良かった。ああ、お茶がまだだったね」
例の呼び鈴が鳴り、執事がそれを持って現れる。万端だった。〝一文無しになったことはあるけど、貧乏はしたことがない〟という一節を思い出した。
「最近はこの苦みが気に入っていてね。それで今日はどんな用だい?」
どちらかと言えば不味いそれを勧めつつ、尋ねる。
「商売の話だ。このナッキーが投資して、私の戦闘団が実行する」
「それの許諾と、推薦を貰いたい。デカい話になる」
「ほう、それはいいね。聞こうか」
隧道に目処が立ち、森のもどきは概ね狩った。あとは街道が通れば、それは始まる。
「東への安全な道があると、ここはどれだけ儲かる?」
「万一の護衛はこいつらが、俺は隧道の管理と宿場町の建設にカネを出す。行き先は獣人国だ」
「なるほど」
少し考えて、たぬきは親指を立てた。いいねというやつだ。




