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007

 辺境領に近づくにつれて魔素の高まりを感じるようになる。人類ぶっ殺すマンの巣窟に近づいているから、というのと、その魔獣の魔力を人類の活計に最大限活用してやろうという辺境伯の努力と情熱の開花の香りを否応なく感じてしまう。その高揚が心地よい。


 人類と魔素は不可分の半身のようなものだ。息をするようにそれを摂り込み、それを練り上げて魔力として様々な形で行使する。そして死ぬ時にそれを遣った記憶を返還する。魔素に意思があるという証明は成されていないが、〝その時〟に声がしたと言う者は多い。

 

 ――それは時に感謝であり、時に辛辣であると言う。こちらの世界で言えば、気まぐれな妖精の麗しい羽から齎される鱗粉を、どうしてどうやったかの顛末、そこに至ったいまの感想に対するコメントを求めるのだ。所謂NDKという奴である。彼ら彼女らに善悪の認識はないとされるのが定説であり、故に対象の善悪は重要ではないとされる。


 世界から授かって、そして還す。魔素とはそういうものだと言われている。重火器の代替としてでもこれのある世界に転生出来た事に、感謝したい。せめて、それがあった事には感謝したい。いま私の歯軋りが聞こえるならそれはそうなのだろう。雑魚でもいいからサイボーグかスーパー●ュータント、でなくともせめてローマン・ベ●ックに転生したかった私の無念はどうでもいい。



 ――ブラックドッグの素材一式を担いだ小僧が、妹らしき小娘に脇腹を小突かれながら歩いて来る。処理の仕方が甘いとでも叱られているのだろう。微笑ましい、日常の光景だ。


 肉を焼く匂いがする。いい成績を上げた兵が豚の半身でも買ったか。今日の酒は旨いだろう。大きな魔石でも出たのかな。


 常歩の馬を、野菜を満載した二頭立ての馬車が追い抜いて行く。昼の市に間に合うようにか、御者の勢いは荒いが、馬は少しお疲れのようだ。〝身体強化〟を軽く飛ばして、礼はいいと手を振る。この世界の馬は、人の心が判る。あの御者も後で謝るのだろう。


 遠く前方から、雄叫びのような響きがする。大物が狩れたようだ。この領で大物が穫れるのは珍しい。そうなる迄に穫られてしまうからだ。ここはフィオレンティーナ辺境領。黒の森を資源として他のどこよりも狩り、そして苅って、刈る者たちの生きる土地である。


「ただいま」


 久しぶりに、笑ったような気がする。

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