006
いやまて、このままでは私が〝このゲーム〟をぶち壊して台無しにした悪女ではないか。私は当然のように探したのだ。おそらくは平民にして希少な光の属性魔法を操りし者、後に聖者と称えられ〝王太子〟と結ばれこの世界の平和を約束する、そんな〝ヒロイン〟を。
王都にある冒険者ギルド出張所は学園入学早々に理解らせて、ヒロインに該当しそうな人物の捜索を全面的に推し進めさせたし、街の顔役どもにも同様を〝お願い〟した。
しかし居なかったのだ。そもそもが、この世界に役職しても称号としてもスキルにしても、聖女なるものの存在は有史以来、確認することすら出来なかったのだ。初めから、居なかったのだ。
あの黒の森を浄化せしめるほどの存在が、仮にも――南北の最大幅が三〇〇〇キロ、東西はその倍以上もある、シベリア大森林並の暗黒地帯を一掃できる能力者など、私の前世の知識をしても数人ばかりしか居ないだろう――存在したとして、あの王家の三兄弟のどれかがそれに相応しいかと言われたらそれはただ唸るしかないのだが、そこまでではないにしても、乙女ゲームのヒロインには様々な亜種・亜流があるだろう。
もちろんそれも探した。気立ての良いパン屋の娘がいれば王子をパシらせ、聡明と名高い伯爵令嬢には土下座する勢いでこの国を頼んでみたし、魅了の魔道具があると知ればそれを持った妖艶な美女に将来を保証した上で突撃させもした(そしてその道具はパチモンだった)。
そして全てが無為に終わり、あの卒業記念祝賀会に至ってしまったのだ。ちなみに、同じ婚約者候補であった令嬢の逃げ足は迅速で、辺境伯の一息女如きの権力その他は通じなかった。家の力を利用する事が叶わなければ、その娘の膂力と眼力など、通じない世界があるとを知れたのを経験の一つとして学ぶ機会であったとだけ、悔しく記しておく。
と、ここまで触れていなかったがあの第一王子の王位継承権は第三位である。だから、そして故になのだろうか、私の尽力は実らなかった。あのアホがもう少し若い時から〝身の程〟というものを弁えていれば、と。
ただ、いずれかの時点で改心のようなものをキメてからの王子は、それまでに比べれば大分にマシにはなったのだ。悪役顔の令嬢に毎日のように挑戦し敗残して諦めない、満身創痍で剣を執る、みっともなくも贔屓目を大目に見積もれば、健気なようでもあるその姿は、恋愛結婚を半ば約束された下位の貴族令嬢や野心ある大商家の令嬢、そしてお気楽な外野である野次馬的な諸々の令息たちからの人気は、じわりと持ち上がっていたのだ。
しかし間に合わなかった。第一王子をどうにか出来る令嬢が、間に、合わなかった。
まあ、それはそれとして私が実力をして貞操を守り切れたのは良い事だろう。あいつはもう居ない。馬の背に揺られるのは気分が良い。結果良ければと言う奴だ。この国の行方など知らん。