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一ラウンドは三分間で、各ラウンドの間に一分間のインターバルが入る。そしてそれを四セット行う。四回戦だ。
見たところ、クルーザー級とスーパーフライ級の対決になりそうだ。力石と丈より、無理があるが気にするな、ソレは腹に貯まった脂肪の塊だ。重くて鈍いぞ。
「拳で決着をつけろ。あとで泣き事言ったらつまらんぞ」
一〇オンスのグローブを付けた二人は困惑してる。まあ、当たり前だ。しかしレフェリーたる私がゴングを鳴らすのだ、殴れ。
「何で! 私がこんなことをしなければなりませんのっ?」
「わからない! だがしかし、いまはいいから私を、この愚かな男を打てっ」
見え透いた空振りをするな。お前の反省と後悔をしていい時間は昨日より前だ、こうしていまに至った以上、するのは覚悟だけだ。
好意的な泥仕合が、二人をヨイショしている。娘に何かしたら楽には死ねないと知った公爵。そんな父上を、ネグレクト以上の虐待をされて尚、慕い続けた娘。ここで因縁に決着をつけさせるのが、私の手伝いだ。さあ。
――ちび子によるテクニカルノックアウトにて、試合は決着した。中途から始まった、何をどうしたかから怒涛に至った、左右のラッシュが勝敗を決めたのだ。
「どうだ、父上は強かったか?」
「はい。古の、騎士たるの矜持を右のストレートに感じました。……悪に染まったとは言え、いい選手でした。でも、だから。私はお父様が好きです。殺してはいけません」
「そうか。なら磔にはできないな」
アレだけして、そしてされてまだ、そう宣うか。いいだろう、私は女子の願いに応えるために、この世に生まれたようなものだ。




