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 ――穏やかな顔をしてる。そう思った。初めて殺した人類。絵に描いたような悪党面。独りだけ、ゲロ以下の匂いがしてた。交わした定番の台詞。迷わずに拳を撃ち抜いた。あれは命のやり取りではなく、一方的な収奪だった。互いに、そう認識していた。

 ならば何故、奴は自らの死を招く火蓋を切ったのか。どうして私だったのか。


「あいつは以前、デルガドスって組織にいたそうです」


 リカルドの語りによれば、そいつらは悪党の底辺にすら唾棄される、真性のクズ共だった。半可の暴力が偶々通じてしまった、貧民街育ちのごろつきの成れの果て。数と卑劣を売り物に、弱い者からのみ奪い、犯し、殺した。

 街から追われると、街道に根を張り、隠れて同じことをした。最期まで。より大きな悪の虎の尾を踏んでいたことに、気づかなかった愚かしさ。


「夢見に悲鳴を上げるのが毎晩でしたね。酷い顔でしたよ」


 ただ独りの生き残り。改心と贖罪のやり方は、せめて同じ道に落ちないように。


「俺たちが襲ったのは、冒険者崩れの護衛する隊商でした。手向かうのは囲んで突き殺して、『こんな奴らじゃ役に立たんだろう? 俺達が代わってやる。寧ろ安全だ』とか何とか」


 貧民街にすら居場所のない、捨て子を拾って集め、育てた。その、やり方はともあれ、あの男がいなければ、ここにこいつらは居なかった。


「……それが、どうして私に。あんな無謀を」

「その前から死に掛けてたんすよ。小便が出ねえとか叫んで悶絶するようになって」

「だから、ですかね。あの時、姐さんを見つけたあいつ、血走った目で『アレだッ』って」

「見る目のあるタフガイだったってことか」

「凄え笑ってましたよ。あいつの楽しそうな顔、あんまり見たことなかったんですが――」


 知らずに、託されてしまっていた。と、いうことになる。仕方がない。


 これが私たちの因果だ。草葉の陰で親指を立てるのをやめろ。笑うな。こっち見んな。

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