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オープンワールドゲームに於ける〝自宅〟、それを確保してみたい。というのが咄嗟に思いついた今回の動機である。最も多い需要は目的地に近い地点への、FT先としての運用を目論むものだろうか。しかし今世界にそれはない。
故に、ここで求めるのは寝床だ。無料で安全。外敵の侵入を許さないセーフハウス。基本にして最重要な安息の地を、人力で構築するのだ。
「姐さん、俺等って強くなってるんですかね?」
「ごま塩程度には、な」
「何ですかそれ。――ここひと月、ドブ浚いと走り込みとボコられるのしかやってないじゃないすか。俺だけじゃなくて、他の奴らも不安がってるんですよ」
「改心した悪党が最初にやるのはドブ浚いだし、走るのは全ての基本だ。そして私にボコられるのはお前たちの宿命であり、死なないための第一歩だ。強くなるのはその後だ」
こいつらは呆れるほどに弱い、否、弱かった。そして弱さを知った底辺からの生き残りであり、これからは違う何かになれるかもしれない。可能性がある、かもしれない。
「で、でも、アレから一度も剣を握ってないってのは、流石に何と言うか……」
「必要ないからだよ。代わりに得たものがあるだろ?」
「へ?」
「向上心。悪党には決して得られないものの一つだ」
不可思議なものを見たかのような顔をしている。心が痩せると、俯いてそれが見えなくなる。まあ、上を向いて歩けるようにしてやるから、踠け。




