022
「あんたここの顔だな」
街外れの煤けた飲み屋の地下、悪党共の住処。不味い酒しか置いてないのが定番だ。
「派手にやってくれたな。いい迷惑だ」
なるほど。マシな方の悪党がする顔だ。悪くない。
「残党を貰う。私の手下にする」
用心棒が殺気立つが、抑える。裏とか地下で生き残ったおっさんの威圧は強い。
「――いいだろう。だが、以降この街を拠点にするのは控えて貰う。頭のおかしい奴らに私の商売を破壊されては面倒だ」
「商売、ねえ。ま、いいさ。奴らには言い含めておくよ。この街は安泰だ」
情報の速さには少しばかり驚いた。流石と言うか、だからと言うか。
「ついでだ、余興を見せてやる。そこの、殺気を隠せてないぞ。揉んでやるから表に出ろ」
難癖だが、ここで知らしめておかないと後に響くかもしれない。
チンピラは乗ってきた。ありがとう、君の犠牲は無駄にはならない。
対魔物の戦闘を積んでない構え。二刀の逆手持ちに浪漫があるのは賛同するが、実戦レベルでそれを運用する者を見たことがない。
魔物に対して獲物を片手で振るい、そいつが有効打になるか。子供でも知っている道理だ。撫でるのにはいいかもしれないが、そいつはお前を殺そうとしているのだと。
対ヒト族だから何だ。何が違う。相手がこちらを殺そうとしていることに変わりはない。だがしかし、いまここで期待されているのは圧倒的強者による格の違いの提示であり、無様を晒せばあいつらが死ぬのだ。私はそれを了承しない。
だから避ける。難しくもないし面倒ですらない。だが、ここはこれを見せておくべきだろう。身体強化発動。殺さずに、しかし徹底的に容赦なく軽めにボコるという、妙技を見せてやろう――
「……やりすぎやろ」
顔役を含めた一同の顔面が白い。チンピラが現代アートみたいになってる他は問題ない筈なのに、私何かやっちゃいました? と言わざるを得ない圧が強い。
「ええと、何と言ったらいいか判らんが、アイツが悪い。弱過ぎたんだ。私は悪くない」
「お前……うちのNo.2だぞ、アレ」
「いやあ、素質はあるし体幹もいい。あと一〇年も鍛えれば、かなりのものになるよ彼は」
「ソレが今はアレだろ」
身も蓋もない。本当に済まないと思っている。
「――それはさておき、今回の懇談はコレで円満に決した、それでいい?」
嫌そうな顔を煮染めたような表情で、彼は私を解放した。




