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適当に刈った髪の威力はなかなかである。子どもは泣かないし大人も腰を抜かさない。笑えば凍ると評された表情も、雑な短髪が誤魔化してくれる。
この顔を認識した瞬間に想起したのは遠い星にあるギルドのマエストロ。前髪がぱっつんな以外は相違なかった。酷薄という形態を全身で表現した、美しい女だった。
笑う姿はデストロの殺し屋のそれ、何かを殺し過ぎて壊れた、イカれたそれ。
ギルドの訓練場に整列した元悪党共。不安が八割で期待が二割といったところか。まずはこいつらを死ねば死ぬという常識から解放しよう。
「走れ! 遅い奴は容赦しないぞ」
子豚共は必死のように走る。あくまで、ように。そこに喝だ。
「遅いとどうなるか。味方の足を引っ張った挙げ句にお前は死ぬ。戦友はお前のせいで死ぬ。最悪だな」
最後尾の豚のケツを蹴り飛ばし、威圧のスキルを放つ。小便を漏らしている。
「ここから逃れるすべは唯一つ、走ることだ逃げることだ。隣のヤツのことなど気にするな。走れ!」
悪党という奴は努力をしないからな。楽をしたがるから鍛えない。と、ここでいう鍛えるは実戦に身を置くことであり、ジムでふんふんするアレではない。
「よし、まずは風呂に浸かってから飯を食え。終わったら寝ろ」
汗塗れの子豚共を始末して、街に出る。もう一つ、やることがあるのだ。




