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そんなこんながあって、私は帰途についている。馬車はいない。これでも貴族令嬢だが、馬だ。そして生まれであり故郷であり、活計のそれである辺境領へ。
胸に下げているのは〝自由騎士〟の称号である。王子をボコって手に入れた、約定の成果だ。大鷲を象った、この辺なら誰が見てもそう解る、黒の森の南に構えた大国の紋章を施された、周辺諸国に於ける身分保障の最上級、この一〇年間を、耐え抜いた証である。
本当に、長かった。ボンクラポンコツ王子との〝婚約者候補〟に選ばれてしまってからの一〇年間。一〇年、人生を転生によりやり直す一〇年の、永さをこの程度で許してしまっていいのかどうか、この憤懣やる方ない気持ちを誰にぶつけたらいいのか、いいのか。
まあ、いい。と、しよう。他にやりようがない。
そんな事より、だ。何だこのゲームは! 何で乙女ゲームなんだよッ、私が愛して狂ってたのは違うだろうッ、ポストアポカリプス! 終末後の世界! 頭ねじ切って玩具にしてやるがの基本のサイバーパンク! 目が合えば殺すしかない、殺伐の極まった畜生共の、そんな世界、だろう?
幼少にして、乙女ゲームを強要された、私の絶望を理解して頂ければ幸いである。