017
私としたことが、少なからず浮ついていたようだ。スロットルを全開にしたまま明後日の方向へ行きかけた。そうだ、この魔導車には出力をコントロールする機構があったのだよ。〝回転〟を御するまでは原理原則、その方面に限れば彼らは有能なのだ。
そして補足として、こいつの形態は所謂ATVのケツを後方に長くしたようなものだ。かつて転倒による死亡事故が頻発し、あの時代には既に制作も販売されていない、前一輪後二輪の原動機付全地形対応車、それがこいつの正体だ。
何故か? ステアリングの概念が未だ発見されていないこの世界で、右へ左へと舵を取る方法として、一番単純明快だったからだ。車輪と連動して向けた方向に曲がる、ハンドルバーは発明とされ、この現代の主流となっている。ちなみに、二輪の自転車はまだ、存在しない。駆動装置のないドライジーネですらない。この世界の馬が圧倒的に強いからだ。魔物との戦闘を想定して制作される乗用車に、それはまだ、必要がない。そもそも、誰もそれの乗り方を知らないのだ。自転車に乗れない者がモーターサイクルを駆ることができないのは道理だろう。
魔石を動力とするこの魔導車の優れている点はどこか。何より軽いことだ。化石燃料やそれに類する混合燃料を燃焼させて動力を得る内燃機関は何だかんだで構造が複雑になり、何より重く効率が宜しくない。そして十分な航続距離を発揮させようとすれば、そもそもの燃料からして重くなる。
では、その後、いやそれより以前からも存在していた、電気に依る電動機を動力として走行する、所謂EVはどうか。これはこれで電池がくっそ重いのだ。あの時代ですら、不十分な代物だった。
そこでこの魔石である。純エナジーの結晶であり、大小や純度に依る品質にこそ差はあれど、そこはそれ、魔道具師の手段に依って最適化された、超のつく軽量原動機がこの、斜め上に進化を果たした異世界に於いて爆誕したのだ。
説明はこれまで。まずは第一にして最大である目標の地である、黒の森の東方近接領域を統べる、獣人国へ向かおう。そこに私の夢がある。




