168 Things Have Never Looked Better
通常、この世界の人類は父と母のどちらかの性質を受け継いで、子が生まれる。
そこに例外があり、これを魔族を率いるもの、魔王という。
父は歴戦のオーガ。母は引きこもりの吸血鬼。共に鬼ではあるが、質は正逆にあり、故に求め合い、愛情が結実した。話せば長い。
「出港は?」
「明朝には整うそうです」
「そうかッ」
「……しかし、本当に行かれるので?」
「ほら、外交とか国交とかさ、先に行かせたアホどもは敵中で行方不明だし、ここはやはり私が出向かないと」
「――とても良い笑顔です」
「そう?」
「はい!」
「まあ、これは仕方がないだろ? 新天地が我らを呼んでるんだ、応えないと如何よ」
「お気持ちは……」
「それでは頼もうか。帯同せよ。貴殿はこれより、私の副官だ」
「はあ?」
「逃さんぞ」
魔族には発想にすら至らなかった、魔木製の四本マストに依る帆走に『回転スクリュー』の推進機関を加えた最新鋭の第一号を並んで眺め、気分はもう新大陸である。
「確か、黒の森とやらの最深部はまだ、攻略されていないんだよな?」
「その、ようですが。いや、まさか――」
「そこはきちんと用事を済ませてからにするよ。これでも王なんだ」
「それ、でしたら……?」
「大丈夫だ、問題ない」
いきなり副官に任ぜられた赤帽子のゴブリンは、問題のある未来について行く羽目になった己の不幸を心中にて嘆く。
「とりあえず、一番いいのを用意しておきますよ、陛下」




