162 私は嫌だと言ったのだ
姫さまの住まいを分かり易く表すなら、ノイシュバンシュタイン城によく似た、例のアレだ。我々はいま、その門前にいる。
「ようし、では行くぞ」
「応よ!」
「柄にもなく、足が竦みます」
「獣人なら、そうだろうな。何しろ頂点だ」
「ええ。準決止まりの私が姫さまの御前になど……」
「だがまあ、気にするな。この私が通用したんだ、懐の広さが半端ないのは違えようがない」
「確かに!」
「納得に失敬を感じないでもないが、まあいい」
「時に姐さん、その格好では些か……」
「むう。確かにこれは戦闘用普段着だな」
傍目に雑魚っぽい軽装歩兵のように見える、しかし一等品にて誂えた私の装備は確かに見栄えがよろしくない。尊き人への謁見に、これほど相応しくない装いもないだろう。
先だっては闘技場だから大目に見て貰えたのかも知れない。いや、多分そうだ。
「何か買って行くか――」
「ドレスとヅラ!」
「屋上へ行こうぜ……ッ!」
「鬘は兎も角、ドレスは良いのではッ?」
「お前、それ見てみたいだけだろ?」
「はい!」
「そのくもりなきまなこをやめろ!」
「ですが姐さん、リカルド兄さんの言う通りです。私は別にそれを見たいわけではないですが、折角の機会なのですからそれに相応しい装いをするべきかと」
「正直な意見をどうも。ちっ、仕方がない。服屋を探すぞ」
「ヅラは?」
「お前に用立ててやる。サザエさんとラーメンマンから選べ」
「せ、せめて仗助で!」
「ほう。カレン・マルダーが良いと申すか」
「コロネ!」
そんな訳で、似合う筈のないマーメイドドレスを引き摺っての参内となった。
「結婚式か!」
「緊張してきました……」
「新郎か!」
「さすが姐さん、やっぱいかり肩にはそれですわ」
「やかましい!」
「馬子にも衣装?」
「それな」
門衛の仰天を半笑いでやり過ごし、城内へ。




