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〝回転〟を二文字で表すのは難しい。しかしこのヒト族はそれを達成した。少し以上にイカれた人類が達成したこの、偉業と言えるかもしれない蛮行と、同じことをやれと言われたらまあ無理だ。いまは考えたくもない。
原動機の最上級、いかなる損失なく一〇割を発揮してしまう摩訶不思議が、不可能を覆してしまった可能性の存在する、この世界の方がおかしいのだ。そうだ。違いない。
ただ、それを超えてその先へ行ってしまった技術の不具合はある。何しろ元が馬車だったのだから、サスペンションはギリで開発されていたがステアリングの概念がない。そして恐ろしくもブレーキの何たるかを知らない。馬にその機能がないのだから。馬は悪くない。ヒトの方がおかしかっただけだ。
走る曲がる止まるの大前提を、ひたすらに前方への進撃に特化した、凄く速いマシン。私はいま、これに跨っている。
現象を再現するのが極めて困難である無属性魔法。人類の誰もが成し得ようとしなかった頭のおかしい魔力運用法、それがいま、こいつを動かしている。
楽しいと最高に狂ってるの狭間で、こいつが私の魔石コレクションを燃やして、溶かして、向かう先が黒の森でないこと、そして何よりも。何よりもまだ、途上にてくたばってないことに感謝している。
それでもまだ、馬を飼うよりは安いという、訳の判らない言い訳のような執念のような何かに天を仰ぎ――




