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母を喩えるならオーガ系女子となるだろう。ド●オとかフォ●クスとかう●らのような、実用一点張りの筋肉が、デカく厚く太く逞しい、私の憧れを体現する存在である。一族の長である父と並べても、後ろ姿では判別が難しいレベルの体躯は只管に羨ましい。そしてしかし私はその、どちらの体質も受け継いでいない。並と比べれば少しだけ太い腕、やや高い身長、それだけだ。……ならばその差を埋める必要がある、という訳で、幼少から出来ることはしてきた。
似ていると言われたのは高祖母だ。――残念ながらその容姿ではなく、心意気の話だそうだが――武門の出でも、木こりの家系でもない、王都の南部にある小さな家、下級貴族の三女。特になにそれに秀でたでもない、平凡な家に生まれ育ち、血統外の並外れた身体強化能力と不屈の向上心のみを燃料にして爆発させ、大成した、剣の鬼、ヒト族の到達点の一つとして、いまも語り継がれている伝説的な剣士だ。
そして彼女が私の師匠である。当時も今も、剣をして魔物に挑むのは無謀にして下策と言われている。いるのだが、個人がその才覚と努力にて、それを達成できると証明した最初の人である。しかもかなりの美貌を備えており、うちのご先祖はかなり相当に頑張ってその寵愛を得たのだとか。つくづく、この一族は麗しき武人に弱い。
実際に会ったことはないし、彼女が遺した弟子の誰もが皆伝に至らず、流派としては既に廃れている。
――そこに浪漫を感じてしまった。私はこういう世界をこそ、望んでいたのだから。努力と可能性が、それを出来ると言っているのだから。
幸いなことに彼女が遺した軌跡は、弟子を含む数々の目撃者によって記録されており、領民であれば誰にでも閲覧が可能となっている。
前世で一〇年ほど剣道を――望んでの事ではないが――嗜んでいた私が、銃器のないこの世界で生き残るならそれしかないと、天啓に似た気分を抱いた日の事を、よく覚えている。




