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決勝は終わった! 私は負けた! しかし後悔など微塵もないわ。アレこそが武の極地。ステゴロなら母さんをも圧倒しかねない頂上。物凄いぞ。
この世界に来て初めて、空を飛ぶという経験を果たしたのだが、あれのメカニズムを、身を持って体験した! この王者がその拳を振り抜いたら、本気でそれをしたら、まっかなトマトになってしまうのがまず第一、もげた頭部が虚空に消えるのが第二、ここまでが物理だ。
そして第三の、当てて押して飛ばす、こそがあの、その、これの正体だ。漫画的技法の具現であり、私がブッ飛ばされたアクティビティの愉悦的な構成のあらましである。
「いい勝負だった。強いな、君は。ああ」
「最高でした! 胸もふもふしていいですか!」
如何にも失言である。この場面で。頭おかしいんじゃないか私は、と自問したい場面ではあるが、正直にして偽りのない気持ちなのだ。
立っているのももう無理矢理な脚でしかし、伝えたいというか、本能がそれを命じる私という存在の全開を、ここで示したい。あ、でも血が足りない。
くるくると回る空を、いいなと思ったら暗転した。暫し休もう。




