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「――!」

 魔熊の左後方から、心臓を貫く刺突が決まる。この時まで奴は私に気がついてもいない。これが出来て一人前、良い戦士であるかはこれからだ。

 熊の素材はまず魔石で、そして爪、ついで牙、角、最後に毛皮だ。これを可能な限り損壊のない状態で回収すること。この解体を滞りなく、如何に迅速に行えるかで戦士の評価が決まる。

 数え切れない繰り返しの経験がこの手を意識せずに動かし、気づけば素材はそこに鎮座している。状態は、まあまあだな。少なくとも鈍ってはいない。


 穴を掘って肉を埋め、胸に軽く手を当てて祈り、帰途につく。不倶戴天ではあるが、それが遺したものを頂くのだ、礼儀の一つ位は示したい。


 因みにこの世界の熊の胆は猛毒だ。薬効の欠片もない、人類を殺すことに特化した劇物だ。当然だが毒持ちの魔物にそれは通じないので、使うとしたら対人に限られる、無用の長物だ。この領で叩き上げられた戦士が、人類、少なくともヒト族相手に毒など使用するのは、ただのオーバーキルだ。


 さて。領まではこれを背負って三時間というところか。あ。そうだこれも知らしめて置かなければ。この世界に空間に干渉する魔法は未だ観測されていない。アイテムボックスだのインベントリだのストレージだの、テレポにルーラだFTだ全移動だの、亜空間殺法などというものはこの世界にはないのだ。少なくとも現時点では存在を確認されていない。


 その辺りを検証するために、国境を越える。それが第一目標だ。地理と歴史について学園の図書室で得た知識が、常識が、真に実在するのかどうか、それがこの世界が単なるクソゲーなのか否かを判断する材料になる。

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