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勘を取り戻したいと領主である父に断って、境界を越える。久方ぶりの黒の森。気配察知は全開にして腰を落とし、隠密を発動させる。死角からのバックスタブの成功率を上げる一手である。
さて。ここでスキルについて説明をしよう。前述のステータスボードには表記されていない〝スキル〟が使える矛盾についての話だ。
あの乙女ゲーウィンドウが個人の能力全てを表している訳ではないのだと。それに気づいたのは最初のスキルを取得した時だ。実感はあるのにどこにも表れない。そもそもあのウィンドウにレベル、HP、MPというゲーム、並びにゲーム的世界に於いて、基本的な表記がされていないという事実から疑ってはいたのだ。いやおかしいだろこれ。数値乃至はバーにてHUDに表示されるまでのゲーム的な要素までは期待していなかったが、それでも何かしらはある筈だと、期待して応えられないが続いた幼少期を経て、これの制作者――神的なくそったれ――への一切を絶望のように諦めていた私に発現した〝身体強化スキル〟を得た、私のその瞬間を、その歓喜の瞬間を、声に出して吼えた瞬間を。
この世界は、複数のゲームが混濁された領域なのではないか、と思い至った時でもある。ならば、制作者が設定した世界観をぶち壊し、この理不尽な世界に投げ込まれた私が、思うままに、好きなように、望むままに生きられるのかも知れない、と。
この世界に転生した事は、私の不幸ではない。そして、これから先に神的な制作者に感謝をしたくなるかどうかは、この世界の――たとえ乙女ゲー混じりの狂った始末だとしても――最終的な完成度の高さが私の欲求を満たしてくれるのかどうかだ。転生先がクソゲーなら、相手が神だろうと許さない気概を持って事に当たりたい。




