秘密
俺は第二の人生を歩んでいる。新しい恋人もできた。今は彼女のために、奇跡的にも働き口を見つけ、一生懸命やっている。俺は生まれ変わるんだ。
「フミヒロ、ちょっとこっちきて!」
彼女が俺の偽の名前を愛おしく呼んでくれた。いつか秘密を打ち明けたい。
お腹が空いた。寂しい。同僚にも彼女にも暴力を振るった。俺は生まれ変わっちゃいない。まともな職につくのは難しい。俺のいきさつを考えれば当然だ。
寒い夜、人だかりが見えたので、近寄ってみると教会が飯を配っていた。当然頂いた。なぜだろうか、ご飯を口に入れた瞬間、涙が溢れ出てきた。次第に嗚咽が止まらなくなった。
そうすると前から、男の足が近づいてきて、俺の目の前で止まった。恐る恐る顔を上げるとそこにはかなり大柄な初老の男が立っていた。
「どうかされましたか。何か辛いことでもありましたか。」
「何でもないです。」
「何でもないことはなさそうですね。私は田中清と申します。もしよければ暖かい部屋で話を聞かせてください。」
1年が経った。あれから俺は教会で働きながら養われてきた。それに加え、清さんは俺に色々なことを教えてくれた。もう俺はこれ以上迷惑をかけられないと思い、今日でここを出ることにした。
「清さん、今まで本当にありがとうございました。」
「お元気で。ヒロトさん。」
秘密は決して隠せない。事件から5年経った今漸く、俺は花を持ち彼女の墓に向かうことにした。
「さあ、来たれ、論じ合おう。たといあなたがたの罪が緋のようであっても、雪のように白くなる。たとい紅のように赤くあっても、羊の毛のようになる」