扉を越えて!
俺たちは踏切を渡ると、いつもとは違い、臨海公園とは反対側に向かって歩き出した。
「こっちには何があるんだろうな?」
俺はみんなに問いかけた。
「なんかおいしい料理を出してるレストランがあると良いな。」
「こっちの方はあんまり来ないからなぁ。安く行けるカラオケなんかがあると良いね、駿。」
颯一と悠太がそれぞれ答えた。この辺りには安いカラオケ店が無く、電車で20分くらい行ったところにある駅のすぐ近くにあるカラオケ店に行く方が安いのだ。カラオケ大好きなのに…。
「こっちの方に何か良い場所があれば、そこを次からのたまり場にしても良いかもね。」
亘琉がこちらを振り返りながら提案する。
「え〜。こっちまで来んの?」
加賀ちゃんは少しイヤそうな顔をした。たしかに、加賀ちゃんや悠太の家からはここまで来るのにはかなり遠い。
「たしかに、ここまで来るのは少しキツイかもしれないな。」悠太も加賀ちゃんに同意した。「できれば臨海公園に集合にしてほしいな。」
俺たちの住んでいる市は南北に細長く、俺と颯一、亘琉は真ん中らへんに、悠太と加賀ちゃんは南の方に住んでいる。臨海公園はそのちょうど中間位にあるので、俺たちが集まるときは基本的にその公園がたまり場になる。
*
ダラダラとしゃべりながら大通りを歩いていたが、途中でわき道にそれることにした。
「こんなところに来てちゃんと帰れるのかな?」
悠太が心配そうに言った。その心配を打ち消すように俺は伝える。
「大丈夫だよ。線路も近いから、もし迷子になったら線路が見つかるまで歩けば良い。線路は一本道だからね。」
「確かにそうだな。ま、何とかなるでしょ!」
加賀ちゃんが同意してくれた。
そのとき、ふいに颯一が声を出した。
「おい、なんだこれ?」
その声に俺たちが颯一の方を向くと、日本にある普通の住宅街に建っているには不自然な、立派な洋館があった。レンガと鉄格子の柵で囲われていて、庭には二本の大きなカシの木が生えている。門の上にはアーチ状に架けられた看板のようなものに、見たこともない記号が並んでいた。
「ちょっと入ってみるか?」
亘琉がみんなに聞いた。俺たちは顔を見合わせた後、亘琉の方を見てうなずく。
門から建物までの道はレンガで舗装されている。そのレンガの道の周りには花壇があり、背の低い草が規則正しく何列にも並んでいてよく手入れがされているようだった。
「これはローズマリーかな。あっちはラベンダーだな。あの植物はなんだろう、図鑑でも見たことがないな。」
亘琉が左右に植えてある植物を見ながら植物の名前を挙げていく。物知りの亘琉でも知らない植物があるらしい。世界は広いんだな。
洋館は三階建てで、くすんだ赤茶色のレンガで建てられているが、一階の入口の部分だけは日本風の黒い瓦の屋根が飛び出ていて、少々不格好だ。屋根には木製の看板が取り付けられていて、門のアーチ看板とは違い、こちらは漢字で < 異世界堂 > と書いてある。
「異世界堂…? 何かのお店なのかな?」
「異世界堂って?」
俺のつぶやきに颯一が反応した。
「多分だけど、この洋館の名前かな? それか、一階はお店なのかもしれない。」
俺はそう答えた。
「店なら入ってみても良くね?」
「そうだね。入ってみようか。」
加賀ちゃんが軽い感じで言うと、悠太がそれに賛成した。
「それじゃあ、開けるよ。」
俺はみんなに確認を取る。みんながうなずいたのを確かめた後、ゆっくりと < 異世界堂 > の扉を開けた。中は暗くて、誰かがいるようには見えない。しかし、やはりここはお店のようで、棚や机の上にはいろいろな食器や工芸品のようなものが置いてあった。壁にもいくつか商品のようなものが並んでいる。
一階の外装は和風だったのに、中は普通の洋館のようだ。
「誰も、いないのかな。」
悠太が心配そうにみんなに意見を求めた。
「でも、外には『休み』とか『 Closed 』とか書いてなかったぞ?」
颯一が言った。
「まあ、あんまり人が来ない店なのかもしれないし、もう少し探索してみようぜ。俺たちが店にいたら、誰かが気が付いて店に来るかもしれないしさ。」
亘琉がワクワクした表情で言った。
亘琉の一言で、店を物色することにした。店の中にはこの辺で売っているような物はなく、どれもヨーロッパに行かないと手に入らなさそうな物ばかりだった。< 異世界堂 > という店名のとおり、店内に入ると日本から一気に異世界に迷い込んでしまったような気分になった。
5分くらい店の中を探索していると、俺は店の中に不自然に置かれた扉に気が付いた。
「おい、みんな!」
俺がみんなを呼ぶと、わらわらとみんなが集まってきた。
「この扉変じゃないか?」
「さっきまでこんなのあったっけ?」
悠太が首をかしげる。
俺たちの前に現れた扉は、金属で美しい文様が施されていて、扉の枠と扉そのものしかなく、どこの部屋ともつながっていない。
「どうなってんだこれ?」
颯一が扉の後ろを確認するが、やはり何の変哲もない普通の扉だった。
「ちょっと開けてみようぜ。」
加賀ちゃんが怖いもの見たさで提案した。
「えぇ? 誰も出てこないみたいだし、そろそろ出てった方が良いんじゃない?」
悠太が店の中を見回しながら言った。しかし、亘琉は加賀ちゃんの提案に乗るみたいだ。
「いや、大丈夫だって。ただの扉だぞ?」
「開けるだけだからさ。な、良いだろ?」
俺もこの扉に興味があったので、悠太を説得した。
「まあ、開けるだけなら…。」
「よし、じゃあ、開けるぞ!」
俺は扉のノブに手を伸ばした。ノブを握ると、金色の文様が光り始めた。
「えっ!? どうなってるんだ!?」
俺はとっさにノブから手を放そうとしたが、接着剤でくっついたかのように手が離れない。さらに、ナゾの力によって扉のノブが回された。文様の光が強くなる。
颯一が俺の異変に気が付いて、ノブを持っていない方の腕を引っ張って助けようとしてくれた。みんなも一拍遅れて同じようにする。
文様の光が俺たちを包み込んだその瞬間、扉が開いて、俺たちはその扉の向こうに吸い込まれてしまったんだ。
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